一人でさすには少し大きすぎると感じていた傘も、二人一緒に入るには小さくて。



傘の端から伝い落ちてくる雨が私の右肩を濡らしていく。




「あ、ごめん。」




それに気づいたらしいユチョンは、自分が濡れてしまうことも構いなしに傘を私のほうへ傾げてきた。





傘をたたく雨の音がうるさい。






「ユチョン、肩――」


「ん?」





柔らかい微笑みが私の言葉を制止する。



言葉のない優しさが、私を濡らす雨を遮る。





「雨、やみそうにないね。」





傘越しに空を仰ぐユチョンの横顔はとても穏やかだった。




雨の音はうるさいのに、私たちのこの空間だけは不思議と静かで。





再びユチョンと目が合うと、一瞬雨の音が止んだ気がした。










01.相合傘

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「あ、……あー。」


「なに、どうしたの?」


「雨。降ってきちゃった。」




夕飯の買い出しに行こうと財布を手にして、ふと窓の外を見れば外は雨。




夕暮れ時の橙色の空に、灰色がかった厚い雲がのさばっている空。


見る見るうちに雨の勢いは増していき、とてもじゃないけど外に出る気分ではなくなってしまった。





「ねえジェジュン、どうしよう。」


「わー、結構降ってるねぇ。」


「……出前、とる?」


「そうしよっか。」




眉を下げて笑うジェジュンに、私も同じ顔をして頷いた。





なにを食べようかといろいろな広告を見比べているジェジュン。


楽しげなその表情は、見ているだけで癒される。





「あとはー、釜飯とかー……、」


「ん?」


「……。」


「なに?」





あれやこれやと気分よく呟いていたジェジュンが、私を見るなりいきなり微笑んで言葉を止めた。


ただ私の名前を呼んで、はにかんでいるだけ。



なんだか照れくさくて、私もつられて笑ってしまう。





きっと私たちは今、同じ気持ちでいるんだろう。



そう思うとくすぐったくて、お互いに顔を見合わせて笑うしかなかった。








02.夕立

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「こういう雨ってすぐ濡れるからきらい!」


「傘持ってくるべきだったね。」





風が吹けばそれに乗って舞うような霧雨は、私とジュンスの全身をくまなく湿らせていく。



せっかくのデートだからと気合を入れたメイクも、きっと雨のせいでめちゃめちゃになっているだろう。




天気予報では降らないって言ってたのに。





「……ジュンス。」


「なに?」


「ここから、ジュンスの家って近いよね。」


「え、うん。……ん? え、」


「…行ってもいい?」





慌てるジュンスの腕を掴んで目を合わせる。



濡れた額に張り付く前髪を退けて、訴えかけるような目をして見つめる。






「風邪、ひきたくない。」






私の思いをどうか汲み取ってと。








03.霧雨

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いきなり降り出した雨をしのぐ為に入ったコーヒーチェーン店で、そしてたまたま選んだ席の隣に、




「お、。」




ユノが座っていた。





テーブルの上には半分ほどコーヒーの入ったカップと、iPhone。


眼鏡をかけていたユノは、私を視界に入れるまでは手に持つ文庫本を読んでいた。



カバーがかけられていて表紙は見えない。




「雨宿りか?」


「うん。ってことは、ユノも?」


「まあ。」




隣席の対角に座ったせいで、ユノと私には少し距離ができている。



かといってユノの隣や、同じテーブルに座るのはなんか違う気がして、そうなるともう座れる席は一つだけ。




ふかふかの一人掛けソファは程よく沈み込んで、ほどなくして睡魔がやってきた。



そんな私を見ていたらしいユノが笑いながら話しかけてくる。





「疲れたって顔してる。」


「眠いだけだよー。」


「最近仕事忙しいの?」





間抜けな顔を見られたという羞恥心をユノは知ってか知らずか、自然な流れで会話に持っていった。



この場の空気がそうなのか、ユノ本人がそうなのかはわからないけど、とても居心地がいい。




見ればいつの間にかユノの持っていた文庫本は閉じられてテーブルの上に置かれていた。


きっと私と会話をするのに持っていると失礼じゃないかとか、考えたんだろう。


律儀な性格のこの人なら、きっとそうだと思う。





はにかんだ顔に安らぎを覚えながら、私はユノとの会話を楽しんでいた。








04.雨宿り

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傘の必要はないほどの小ぶりの雨。



こういうのを”涙雨”というらしい。




降っているんだか降っていないんだか、線引きが微妙なこの雨は、ときどき僕の体にあたる。





今日は撮影が早く終わったから、と外を歩こうとせっかく待ち合わせをしたのに。


これから雨が強くなったらせっかくの計画が台無し。



タイミングが悪い。






「雨降ってきたねー。」





後ろからのほほんと聞こえてきた声に振り返ると、手をひらひらと降りながら笑うと目があった。





「チャンミンが外でデートしたがるなんて珍しいのに、残念。」


「珍しい? わりとしてると思うけど。」


「そのうちの大半は私から誘ってるでしょ。」





のボブヘアーが少し重たく見える。



音を立てているわけではなく、それでも湿った空気が雨の存在をはっきりとさせている。





の服の上に雨粒が一つ落ちた。






「で、チャンミンはどこに行きたかったの?」


「別にどこに行きたいわけじゃないんだけど。……一緒に散歩しようかと思って。」


「行き当たりばったりなのね。」





眉を下げて笑う



一緒にいられればよかっただけって、言いたいけど恥ずかしさが勝って言葉に出てこない。




それを知っているのか、は「どうしようか。」と柔らかく困った顔を見せた。






「少しくらい、雨に濡れながら散歩でもしない?」


「チャンミン、どうしたの。センチメンタルなの?」


「そうじゃないけど。」





注意深く耳を澄ませば、パラパラという音が聞こえるかどうかというくらいの雨量。



なんとなく趣があって、そんな街中を二人で歩いてみるのもいいんじゃないかと思わせる雨。






「雨もなかなか、いいものだよ。」








05.涙雨

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2015.10.3

なんとなく雰囲気の小話。……に、なったか、否か。


雨に纏わる5つのお題  BLUE TEARS様より