目が回りそうなほど忙しい毎日に弱音を吐く暇すらなくて、自分の限界の感覚がマヒしてきてるなと他人事のように思う。
そんな時いつもタイミングよく助けてくれるのがジュンスで、今回もそうだった。
彼は私の大好きな笑顔を浮かべて私の家の玄関をくぐる。
そしていつも必ず大きな腕に私を抱きしめてくれるのだった。
今回も例外になく。
「会いたかったー。」
私よりも早くその言葉をつぶやき、ジュンスの気が済むまで私は抱きしめられたまま。
私だって会いたかった、そう言いたいのに、ジュンスの腕の中がこんなにも落ち着くから縋りつくように堪能してしまうと言葉なんて二の次になってしまう。
「、お湯沸かして。」
抱きしめられたまま上から降ってきた声に、思わずどきっとしてしまう。
だけどすぐに次の言葉が添えられて、「お風呂じゃなくて、飲む方のお湯ね。」とジュンスのはにかんだ笑顔に毒気を抜かれた。
やかんに入れられた二人分の水は、ガスコンロの火に当てられてどんどん温度を高くしている。
「ジュンス、何するの?カップラーメンでも食べるの?」
「ちがうちがう、これ。」
カバンの中から取り出された、小ぶりだけど高級感のある缶。
和紙のようなラベルに流れるような筆で字が書かれていて、見るからにそれは日本茶の缶だった。
「どうしたの、それ。」
「急にと飲みたくなって、お茶に詳しいスタッフにおいしいお店を聞いて買ってきたの。」
ジュンスにお茶。
こういったら失礼だけど、あんまりパッとしないというか…連想しづらい。
会わないうちにハマりでもしたんだろうか、缶を持ってキッチンでお湯が沸くのを待っているジュンスは鼻歌を歌い始めた。
普段お茶を淹れるなんてことはしないので、うちに湯呑はない。
湯呑がなければ急須もない。
それをジュンスに伝えると、思い出したようにカバンを漁りながらうっすらとドヤ顔を浮かべて「買ってきた。」と笑って見せた。
「久しぶりに飲むよ、淹れたてのお茶なんて。」
ジュンスが入れてくれた日本茶。
名前はよく見なかったけど、鮮やかながらどことなく深みある緑、ところどころ細かい茶葉が漂うカップを見つめて、懐かしさを覚えた。
昔、おばあちゃんの家に帰ったときはよく飲んでたな。
大人になるにつれてどんどんそういう機会がなくなってしまった。
ゆっくりする時間も、今の私にはなかなかない。
「飲む前に、香りを楽しむんだよ。」
こんなふうに。
そういわんばかりに、ジュンスは鼻を近づけてお茶の香りを吸い込む。
私も倣うようにお茶に顔を近づけた。
勢いづけて香りを吸う。
ほっとするような、それでいてシャンとさせられるような、そんな香りがした。
眼前に緑のすがすがしい風景が広がって、じわじわと溶けていくような感覚。
昔は馴染みのあった、温かくて優しいにおい。
「日本の人は、特にこのお茶が好きなんだって。お店の人が言ってた。」
隣で柔らかく笑うジュンス。
もう一度香りを嗅いで、ほっこりとした表情を浮かべる。
「落ち着くんだって。いろんなお茶の中でも、特にこれが安らぐんだって。」
「……うん、そんな感じする。」
「よかった。」
口に含むとよりダイレクトに香りが広がった。
少しの渋みと柔らかな甘みに、切なささえ覚える。
隣で「おいしいね。」とはにかむジュンスの優しさも相まって、私はしばらく言葉を失っていた。
日本茶を吸い込んだら