「またね。」





「うん、また明日。」





「…うん。」





「……。」










太陽が地平線の向こうへ隠れようとしているこの時間帯の空は、




一秒ごとに表情を変えて、いつの間にかあたり一面を暗くしてしまう。







さっきまでは綺麗な橙色をしていた空が、



ちょっと目を放した隙に紺のような色と交じり合って、いい具合のグラデーションになっていた。












黄昏時












「…早く家に入りなよ。風邪引いちゃうよ?」




「チャンミンを見送ってから入るよ。」




「僕はが無事に家に入ったのを見届けてから帰るよ。」




「私はチャンミンが見えなくなったら家に入るよ。」




「……頑固だね、。」




「チャンミンこそ。」








たった今、「またね。」と交わしたばかりだというのに。




端から聞いたら、勝手にやってろよと思われるような会話を2人は繰り返す。





結局、どちらもお互いを見送ってから帰りたいらしい。




チャンミンもも、なかなか折れない。









「ほら、家に入って。」




「チャンミンこそ、自転車に乗って。」




「だから僕は――」




「見届ける必要なんてないよ。ドア開けたらすぐ家の中だもん。」




「このご時勢、何があるかわからないから念には念をってやつだよ。」




「それ言ったら、チャンミンのほうが私よりずっと危険じゃん。チャンミンはここから家に帰るんだもん。」




「僕は男だから、大丈夫。」




「大丈夫じゃないんだよ、このご時勢。」








お互いに一歩も譲らない。






気がつけば、あたりの空一面が暗くなっていた。



一等星も姿を現している。






冷たい風が「どうでもいいから早く帰りなさい。」と言うかのように、2人の間を通り抜けていった。










「…さむっ…。」




「ほらーチャンミン、風邪ひくし、家の人も心配するよ?」




「……。」








鼻の頭を赤くしながら、チャンミンに近づく




自転車のハンドルを握るチャンミンの片手に自分の手を重ね、摩るように暖め始める。








白くて小さな冷たい手。




何度も何度もチャンミンの手の上を往復して、必死に暖めようとしている










「(…帰りたくないな。)」









よりもずっと背の高いチャンミンは、愛おしそうに彼女を見つめながら目を細める。







明日も学校で会えることはわかっているんだけど、




明日会うまでの時間が多すぎて、だからいつまでも傍にいたいと思ってしまう。









「…ねー。」




「ん? なに、チャンミン。」




「…ちゃんと、布団かけて寝るんだよ。」








が温めてくれていた手を、静かにの頬に添える。




冷たい指先はしっかりとの頬の熱さを捉え、その熱を吸収しているかのよう。





心なしか頬を赤く染めたは、「う、うん。」とはにかんで答えた。








「お腹出して風邪ひかないようにね。」




「お腹なんか出さないよ。」




「髪の毛もしっかり乾かして、風邪ひかないようにね。」




「わかってるよー。チャンミン、どうしたの?」




「んー……のことが好きだから、心配になった。」




「…私そんなマヌケじゃないもん。」








2人して笑いあっていると、いよいよ本格的に日が落ちて夜がやってきた。





街頭があちこちでさびしく光り始める。







静かな住宅街で2人は小さくキスをして、お互いに見つめあった。








、家に入って。」




「……うん。」







結局最後に折れたのは




名残惜しそうに家のドアを空けて、チャンミンに再び振り返る。






そんな顔をされると、やっぱり帰りたくなくなってしまう。









「また明日ね。おやすみ。」







軽く手を振ると、も「おやすみ。」と家の中に入っていった。







カチャリ、ドアの閉まる音が静かに響く。







チャンミンは自転車に跨り、ゆっくりと自分の家に向かって走り始めた。











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2010.11.20

久々すぎて書き方がよくわかりませんでした。
とりあえずちゃんみんでほのぼのした小説を書きたかったんですが。
ほのぼのっていうかなんていうか…ちょっといちゃついてるだけみたいなね。

香澄は冬の夕方から夜にかけてのあの時間帯が好きです。
ホントに一秒ごとに表情を変えて空が変わっていくので、たまにベランダに出て空を眺めたりしてます(笑)