「…、なにしてんの?」


「この子、綺麗にしてあげようと思って。」




そう言うは洗面台に張った水の中で10cmほどの人形に衣類用洗剤を少しかけてゴシゴシともみ洗いしている。



いつだったか僕がにあげた、携帯につけるストラップの人形。




ずっと洗ってなかったからさー、という表情は、なんとなしに楽しそうだ。






This is my favorite!







は昔から、思いたったらすぐ行動に移すことが多い。




今のこれだって、前触れもなにもないいきなりの行動だった。



夕飯後ののんびりタイムを二人でだらだら過ごしてたのに、はケータイから人形を取り外していきなり洗面所へと向かった。




に寄りかかる形でテレビを見ていた僕はずるりとソファに沈む。



、と声をかけてもんー、と間の抜けたような声で返すだけで僕に目もくれず。



のろのろとを追いかけると、さっきまでのだらだら感はどこへ行ったのかテキパキと洗う準備をしているがいた。







「わざわざ洗わなくてもいいじゃん、また別の買ってあげるし。」



「えー…私この子が好きなんだもん。」





そう言ってが顔を上げた。



僕に向かってにこっと微笑む。少女と女の間みたいな表情だ。






「別のはいらないんだ、この子がお気に入りだから。」



「…たかが人形でしょ?それもストラップ用のさ。」



「あー、ばかにしてるの?チャンミンにとってはたかがかもしれないけどさぁー。」






僕にはよくわからなかった。




だって、本当にたかが人形としか思えなかったから。



わざわざ洗ったりなんてしなくても、新しい綺麗なのを買えばそれでいいじゃないかと。



そんなに高価なものじゃないんだし。




自分のあげたものを大切にしてもらえてるっていうのは嬉しいことだけど。






「チャンミン知らないでしょ。人形だって一つひとつ違う子たちなんだよ。」



「個体があるってこと?」



「んー…そんな感じ、かなぁ。顔が違ったり、形が違ったり。」



「そりゃぁ、人の手で作られてるものはそうなるでしょうよ。」



「まあね。でも私はこの子が好きなの。チャンミンがくれた子だし。別のじゃいやなの。」






綺麗になったー、と人形を見て笑うに、僕も自然と頬が緩んだ。




正直、いい年して、と思うけど、ちょっと子どもっぽいところも好きだから愛しく見えてしまう。






「でもさ、お気に入りの割には容赦なくごしごしやってたよね。」



「だって、そうしないと汚れが取れないじゃん。さて、あとは脱水して乾かすだけ…」



「え、ちょっと待って。脱水機にかけちゃうの?」



「うん。なんで?」



「…お気に入りって言う割には扱いが雑じゃない?」



「そんなことないよ!洗濯するのと同じ手順踏んでるだけじゃん。」



「(あーあ、人形に皺よってる…かわいそ。)」








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2012.09.13