臆病者よ、目を開けろ。
耳を澄まし、五感を研ぎ澄まし、全てを受け入れろ。
臆病者よ、手を伸ばせ。
掴まれた手を振り払うな、人の情を侮るな。
「それでもやっぱり、僕はあなたが好きです。」
揺るぎのない瞳で心の臓を刺す。
馬鹿を言うなと言ったところで、彼はそれを聞き入れるような人間ではなった。
愚か者への罪と罰
「(また、あの時の……)」
重たい瞼を開くと、室内はまだ暗いままだった。
夜が明けるのもまだまだ先、二度寝をしても十分眠れる。
もたげた頭をそのまま枕に沈めて、再び目を瞑った。
脳内から離れないあの子の声が、私から睡魔を遠ざけていく。
汚れた大人と純粋な子ども。
私とあの子を表すとしたらこんな表現が一番ふさわしい。
どこまでも私を信じて疑わず、惜しいくらいの愛情を私に注いだ純潔な子ども。
私が笑えば彼も笑い、泣けば慰め、手を繋げば照れた顔を見せた。
大人という鎧を纏っただけで、大人と呼ぶには不完全すぎる人。
私が騙したのはそんな純粋無垢な人だった。
ただ、運が悪かったのだ。私も彼も。
さん――チャンミンが私を呼ぶ声が頭の中に響く。
今まで騙していたのだということを告げたときの顔が、未だに忘れられない。
いつだったか、チャンミンがずっとこのままでいられたらいいねと、眩しい笑顔を私に見せたことがあった。
ずっとなんて、永遠なんて、そんなものないのよと冷めた頭で考えていた私は、それでも自然と「そうね。」と返していた。
愚か者は、どちらだろうか。
臆病者は、どちらだろうか。
自分でも無意識に口をついて出た言葉に、チャンミンはなんて幸せそうに笑っただろう。
くすぐったそうに顔をくしゃくしゃにして、私なんかに向けるにはもったいないほどの笑顔で、何度好きと囁いてくれたことか。
一方的な別れを告げたときのあのシーンが、あのときのチャンミンが、今でも夢に出てくる。
いくら仕方がなかったとしても彼は裏切ってはいけない人だった。
愛されて育った彼を傷つけた私の罪は重い。
重罪を犯した犯罪者も同然。
「…チャンミン。」
どうか彼が幸せになれますように。
惜しみないありったけの愛で満たされますように。
私のことなんて忘れられるくらい幸福に包まれますように。
再び、誰かを愛するということを幸せだと感じられますように。
私にはもう叶えられない望み。
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2013.1.3