「ねえ、近いうちに休みが取れそうなんだけどさ。」
「…うん。」
「どこかに出かけない?久々に。」
「…うーん…?」
「行きたいとこある?やりたいこととか。」
「…んー……。」
が会社から帰ってきて、僕も仕事を終えて。
僕は部屋着に着替えながら、テーブルで早速ご飯を食べ始めているに声をかけていた。
しかし、当のはテレビに釘付け。
ここ最近大々的に宣伝されていた、豪華キャストが出演している時代劇ドラマに夢中になっていた。
本能的なやきもち
「はあ。(話、ぜんぜん聞いてない。)」
がご飯を食べることも、僕の話を聞くことも忘れて夢中になっているドラマの中では、
隊長らしき人物が大勢の兵士の前で檄を飛ばすかのごとく長台詞を喋っていた。
この俳優――と僕は思考をめぐらせる。
確か、ここ数年でかなり注目されている俳優だ。
年は僕たちの親と同じくらいだけど、演技力の高さと気さくな人柄が人気を集めているらしい。
ダンディ俳優として最近世に名を知らしめていて、いつだったかも「ホントに好き、この人。」と言っていた気がする。
「。」
「…ん?」
「僕の話、聞いてた?」
「…あー、ちょっと……ちょっと待って、今いいとこ。」
「……。」
ほらやっぱり、ドラマに夢中。
そりゃ確かに、この俳優はかっこいいし渋みがあって、本当にダンディな人だ。
だけど恋人がいる目の前で、僕そっちのけでそんなに夢中になることないんじゃない?
久々に会えて、久々に出かけに行こうかって話しをしてるのに。
大体このドラマ何時に終わるわけ?
終わるまで、ずっと待ってなきゃいけないのか。冗談じゃない。
そんなんだったら、さっさとご飯食べて風呂に入って先に寝ちゃうよ。
「はあ。」
あからさまなため息にもは反応しない。
たかだかドラマだけど、嫉妬しちゃうよな。
だって相手はダンディ俳優、なんだもん。
僕が睨みつけるようにテレビを見ていると、シーンが変わって子どもたちの駆け回る姿が映された。
そこでようやくは体勢を戻し、僕に向き直る。
「で? チャンミン、何の話だっけ?」
「…もういいよ。」
「えー? 久々にどうとか、言ってたじゃん。気になる。」
「いいの。」
「…いいなら、いいけど。」
我ながらつまらない意地を張ってるな、と思う。
が実際に会ったこともない俳優相手に嫉妬なんかして、情けない。
頭ではわかってるけど、悔しさが先行してどうにも子供っぽく振舞わざるを得なくなってしまう。
情けないなぁ、僕。
「あ、ねえチャンミン。ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてくれる?」
は僕の話に執着することもなく、話題を変えて僕の顔を覗き込んだ。
なに、と答えると、「チャンミン、なんでふてくされてるの?」と不思議がられた。
別にふてくされてなんか、ないですけど。
「あのね、ナイトクルージングの招待券をもらったの。一緒に行きたいんだけど、だめかな?」
はカバンからその招待券を取り出して、僕の目の前に差し出す。
夜の港町に、結構大きな客船が写っている写真には、『ナイトクルーズ ご招待』と書かれていた。
「綺麗な夜景を見ながら、いろんな種類のお酒が飲めるんだって。船内ではジャズの生演奏とかあるらしくって。
ちょっとリッチな気分を味わえるでしょ? チャンミンと一緒に行きたいなーって思って。どう?」
僕の話はちゃんと聞いてもらえなかったけど、結果として答えがもらえたわけだ。
のやりたいこと、僕と一緒にナイトクルージングか…
招待の期間内には休みは確実に取れるだろう。
朝と昼は買い物したり食事したりデートして、夜はちょっと大人っぽく海の上で酒を交わす…
なかなかいいデートプランじゃないか。
「いいよ。」
「えっ、ほんとに!? わー、うそ、嬉しいー!」
「その日はずっとを独り占めさせてもらうから。」
「独り占め?」
「うん。今までデートできなかった分、たっぷりと。」
「なんか恥ずかしいそれ。でも、独り占めしてもらうの、期待してます。」
「いやってくらい僕のそばにいてもらうからね。」
再びテレビにあの俳優が映った。
セリフをしゃべりだしたタイミングで、僕はにキスをする。
があの人に振り向かないように。
小さく名前を呼んで口付ければ、の意識は完全に僕だけに向けられていて。
みっともない優越感が僕の胸の中に広がっていく。
子どもじみた嫉妬心に、僕は心のうちで苦笑いをする。
「どうも僕は、と一緒にいると子どもっぽくてダメだね。」
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2013.4.10
小さなことにもちょっと嫉妬しちゃうちゃんみんかわいい。