「僕は別れ話の真っ最中だと思うけどな。」


「いやいや、あれはいい雰囲気よ。」




ショッピングモールのレストランの一角で、我ながら何をやってるのか、と思わず苦笑したくなる。

言ってしまえば、人間観察なんだけど。




店のガラス越しに見える、外のベンチに座る1組のカップル。



私たちに背を向けるように置かれたベンチのせいで2人の顔は見えない。


2人は微妙な距離をとって座っている。



このカップルを、さっきから私とチャンミンは観察してるというわけ。



顔は見えないし、当たり前だけど会話も聞こえない、だけど2人のあの距離がすごく気になっちゃったという、ただそれだけの理由。




「何となく空気が重いよ。」


「なに言ってんのチャンミン。絶対いいムードだって。」


「じゃあ何であんなに距離とってるの?」


「恥ずかしいんだよきっと。でも、離れすぎるのもおかしいから、あの微妙な距離になっちゃったんだよ。」


「えー、険悪な雰囲気だからじゃない?」




とまあ、こんな感じで好き放題言ってる訳なんだけど。




あの2人の事実が何なのかなんて全くわからないし、当の本人たちも私たちにこんな事言われてるなんて思ってもいないんだろうな。




「……ね、チャンミン。」


「ん?」


「私たちは、周りからどう見られてるんだろうね。」




私たちの会話が聞こえないところから私たちを見て、恋人同士と捉える人がいたり、友人と見る人がいたり、するかもしれない。




「こんなことやってるのなんて、僕たち以外にそうそういないでしょ。」


「人は意外と人を見てるもんよ。」




恋人、友人、兄弟、親戚、先輩と後輩、上司と部下……



そのシチュエーションによって変わるけど、いろいろ推測ができる。


私とチャンミンは、周りにはどう捉えられてるんだろう。





「別にどう見られてたって僕は気にしないよ。」


「私も気にしない。でも、どういう風に見えるのかは、気になる。好奇心的な意味でね?」


「何それ、言ってることよくわからないよ。」


「ネガティブな意味じゃないってことよ。」





クスクスとチャンミンが笑う。


それにつられて私も笑う。



ふと店の外に視線をやると、さっきのカップルの姿が消えていた。



私の想像の中では、あの2人は初々しい恋人同士として存在している。



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ごめん、眠くて途中自分が何書いてるのかわかりませんでした。
人間観察って面白いですよね、という話……の、はずが。

10.4.14




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「頑張って、あと少しでしょ。」

「チャンミンがちゅーしてくれたら元気出てがんばれる。」

「…しかたないなー。はい、」




ちゅっ







「……って、頭フル回転させて疲労しきった体にムチ打ってがんばってるあたしを、

こーやってチャンミンが励ましてくれると、


だいぶやる気がみなぎるんだけどなー。」


「そんな妄想してる時間があったらちゃっちゃと手動かしなよ……」



心底呆れたような顔で、

チャンミンは私を憐れむようにそう言った。



つれない、あたしの彼氏。




「ちゅー、ちゅーして〜」


「口じゃなくて手を動かすの。」


「ねえチャンミーン。」




ホント、

一回だけでもちゅーしてくれたら、


あたしすっごいがんばれるのにな〜…





「……わかってないようだから言うけど、」




今度は、私を恨めしそうに見るチャンミン。


なんでこんな、悲しい表情しか向けられないのか。



あたしは、ショックだよ、チャンミンくん。




「そっちは一回でよくても、こっちはこっちの事情があるの。」



「………あー、

つまり……」





歯止めがきかなくなる、と。




「あー……なるほど。」


「わかったらさっさと終わらせる。」


「……終わらせたら、ちゅー、する?

抑制しなくていいもんね?」


「…………あのさ、」






それは誘い文句だよね?


チャンミンが唇をちょっとひきつらせて笑いながら、あたしを睨む。




当たり前じゃん、て答えると、

低い声で「…覚悟しとけよ。」と宣戦布告されてしまった。





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10.9.09

気分転換に書きました。




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「あーシム、悪いが後でこのプリント集計したら職員室まで持ってきてくれないか。」

「わかりました。」


放課後、私とチャンミンと、担任以外誰もいない教室。

その担任も、荷物を抱えてチャンミンに一声かけると足早に去ってしまった。



「…猫かぶり。」

「うるさいよ。」

「腹の中ではメンドクセーって、思ってるくせに。」

「だとしても僕は”優等生”だから。」

「自分で持ってけよって、思ったでしょ?」

「話聞いてたんだから、集計、手伝ってね。幼馴染のよしみで。」

「報酬は?」

「んー……これでどう?」


超がつくほどの猫かぶりで、私以外の人間には”優等生”としてまかり通っているチャンミンは、おもむろにカバンの中から何かを取り出した。


見るとそれは、最近都内にープンしたという、高級チョコレート店のチョコだった。



「どうしたのこれ、買ったの?うわ、イヤミー。」

「あげないよ?」

「ありがたーくちょーだいいたしまぁす。」

「…母さんが、この間買ってきたんだよ。結構うちにいっぱいあって……こういう甘いの、好きでしょ?」

「なに、私のために持ってきてくれたの?チャンミンが?」

「早く僕になびいてくれないかなって。」

「餌付けかよ。」

「だってこうでもしないと、例の先輩から目離して僕のほうに振り向いてくれないと思って。」

「ふーん。」


猫かぶりで優等生の仮面を被ったチャンミンが、高級チョコレートをエサに私をつろうとしている。

おいで、おいで、僕に振り向きなって。


「腹黒め。」

「早く僕に振り向いてくれればいいだけの話。何年待ってるか、わかってる?
これ以上待たせるようなら、実力行使にでるからね。」

「悪魔。鬼、魔王。」

「悪女、サディスト、変態。」

「はぁ?聞き捨てならないわね、特に後ろ2つは。」

「悪女は否定しないんだ。」


私はチャンミンの「おいで、おいで」にはひっかかってあげない。

私がほしいなら、捕まえにくればいい。


「じゃあ悪女さん、集計しようか。」

「15分経ったら私帰るからね、魔王さん。」


目を合わせて、お互いに目で笑う。


チャンミンのその目を見て、改めて私は「こいつ腹黒だな」って思ってしまった。




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2011.5.12





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「好きです。」


その一言を体の奥から絞り出すように声に出す。

目の前にいるチャンミンくんはただ私を見つめるだけで、何か言葉を返してくれるわけでもない。


その無音が恥ずかしくて、少し怖くで、慌てふためきながら二言目を紡ぐ。


「あの、わたし、どんくさいし頭も良くない、チャンミンくんの周りにいるような女の人と比べたら全然パッとしないけど、でも、すごく、好き…ですっ!」


必死すぎて他人からみたら笑ってしまうような今の私。

跳ね上がる心臓の音が耳を支配している、とてもうるさい。


あのさ、とチャンミンくんから発せられた声に、長い間彼の声を聞いていなかったような感覚がして余計に心臓がはねた。


「他人と比べる必要ないんじゃない?そんなの意味ないんだし。」


頭の上に、大きな手のひらがおかれた。


「自分らしさをもっと大事にするべきだよ。他人がどうこうよりも。」


目線がぶつかって、チャンミンくんの瞳に自分の姿が映った。

すごく緊張して体がこわばってる、私の姿。


「自然体のほうが僕は好きだよ。」


好き、


チャンミンくんの口から生まれた、私の欲しかった言葉。

震える体を抱きしめられて、私はなす術なくチャンミンくんの腕の中へ。


なんだか、夢をみているみたい。



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2013.9.17