”女子”なんていう年齢をとっくに過ぎた身分でありながら、”女子旅”と称した旅行を楽しんだ一日。
周りは缶ビールを何本も空けてへべれけになって布団にぶっ倒れている。
まったくもって”女子”とはなんぞやと考えずにはいられない。
テーブルの上にはさきいかやスモークチーズやナッツなどが散乱。
本当にやりたい放題のしっちゃかめっちゃかな部屋だなぁと思いつつも、気を遣わずにいられる親友たちと一緒にいられるということに改めて幸せを感じる。
「ちゃあぁあん……ワンカップ!」
「あんたどうせそのまま寝ちゃうでしょうよ。買ってこないよ。」
「ぁんだってえぇ!? ……このやろう、…男前の旦那がいるからって、調子づきやがって、このやろー…」
「(旦那じゃないし。……まだ。)はいはいおやすみ。」
ON & OFF
なぜか妙に冴えている頭。
私以外の3人は見事に泥のように眠っていて、部屋の中はとても静かだった。
風呂に入りなおそうか、それとも夜風に当たってぼーっとしようか。
どっちも捨てがたいなあ。
と、思っていると、いきなり電子音が鳴り始める。
音の出所は私のカバンからで、取り出した携帯には「ジェジュン」の文字が表示されていた。
みんな寝ちゃってるから別に気にすることもないんだけど、なんとなく部屋の外に出てから着信に応える。
「もしもし。」
『ー、なかなか出ないから寝ちゃったかと思ったー!よかった、声聞けて。』
電話の向うから聞こえるそれはそれは嬉しそうな声。
明るく弾んで、夜中のテンションとは思えないような。
自分で言うのも自惚れだと思うけど、ジェジュンは相当私のことが好きだ。
行動、表情、声色、すべてにおいて私への好意を表現してくれる。
一緒にいるときはもちろん、電話やフェイスタイムみたいな媒体を通しても変わらない。
私みたいな女っぽさのほとんどない人間が、あの人と一緒にいられるなんて宇宙が誕生したレベルで奇跡だ。
『ー?眠いの?』
「ちょっとね、酒飲んだし…」
『どれくらい飲んだの?いっぱい飲んだ?』
「うん、そうだね。いっぱい飲んだ。」
『そっかー。僕もと一緒に飲みたかったなー。旅行楽しい?』
「楽しいよ、他のみんなは泥酔してもう寝ちゃってるけどね。」
柔らかくて楽しそうで優しい声。
私だけに向けられてるんだって意識すると、すごく幸せな気分。
小さな笑い声でさえも私の心を掴んで離さない、なんだかんだ私もジェジュンにすごく溺れてる。
自分とジェジュンの不釣合いさに何度も悩んで自己嫌悪して、一人で勝手に不安になったりしてるけど、それを吹き飛ばしてくれるのはやっぱりジェジュンだった。
「ジェジュンは?今日の仕事大変だった?」
『ううん、今日は一日中ずーっと曲作ってた。』
「へえ、創作の一日だったわけだ。」
『そう!パソコンに向き合ってばっかりだったから、肩がガチガチだよー。』
「お風呂入って体ほぐしなー、あとしっかり寝るんだよ。」
『そうするー。』
「ん。じゃあ、そろそろ寝るね。」
『あっ、待って!まだ切らないで!』
電話越しの物音、しばらく続いてやっと静かになったかと思うと、ジェジュンがぼそりと呟く。
『僕が寝るまで切らないで。』
あー……口を尖らせて眉間にしわ寄せてる顔が安易に想像できた。
慌ててベッドに潜り込んだんだろうなあ。
これじゃあ男女逆転の恋人関係みたい。
「えー、私も眠いんだけど。」
『いいじゃん、布団に入りながら電話続けて。僕の声聞きながら寝ればいいじゃん?』
「たぶん目瞑ったら即効寝れる。」
『そんなこと言うなよ!僕はの声を聞きながら寝たいの。そばにいないんだから。』
「…えぇ?」
『あ、照れてるでしょ。はは、わっかりやすーい。』
楽しそうに笑って、布の擦れる音がしたかと思うと少し低くなったジェジュンの声。
『会いたくなるからやめてよ、そういう可愛いとこ。』
「…意味わかんない。」
『まったくツンデレだよね、は。もっと素直になったら?』
きっと今ジェジュンはドヤ顔だ、断言できる。
さっきまではちょっと女々しいくらいだったくせに、こうやって突然スイッチを入れてくるところがちょっと恨めしい。
でもそうやって、女である私を気遣ってくれてるんだろうなって、薄々わかってる。
ジェジュンの低い掠れ声、耳から入る刺激は強すぎるほど。
『あーあ、がそういう態度とるからもっと会いたくなっちゃった。……どうしてくれるの?』
「……会いに来れば。」
『かわいくなーい。そんなとこも好きだけどさ。あー!もうっ。の妄想して寝る!おやすみ!』
声のトーンがまた戻った。
戻ったけど、さっきよりも色気づいていて――心臓に良くない。
『帰ってきたらいっぱい構ってね。あ、間違えた。いっぱい構ってあげるね。』
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2014.9.10