片道ダイビング
ソファに深く腰掛けて、視線は自分の手元、その一点に集中している。
かなり袖の余っているセーターに覆われた私の大好きな手は、ときどき機敏に動いてタブレットを意のままに操る。
少し伸びた前髪が目元を多い、もともとの色っぽさにより磨きがかかっていた。
「(仕事人め……)」
なんて胸の内で悪態をつきつつも、そんな彼が大好きだからしょうがない。
表現者としてのジェジュンも、仕事のスイッチを切ったジェジュンも、どっちにも気づいたら惹かれていた。
理由はきっといろいろとあるんだろうけど、盲目的になってしまった今ではそんなのもうわからない。
そんな理由なんてどうでもいい。
私が一瞬にして惚れて慕情に溺れて、世界で一番大好きになってしまったのが彼だったというだけの話。
「、お昼ごはんどうしよっか?」
緩やかに私に向いたジェジュンの視線は、眠たげに揺れている。
ゆっくりと瞬きを繰り返す瞼。
そのたびに目を引くまつ毛の長いこと。
「――っ、え、……?」
たまらなくなって、ジェジュンの唇を軽く塞ぐ。
ほんの一瞬、軽いタッチで触れるだけのキスで、ジェジュンの睡魔はあっという間に吹き飛んだらしい。
見開かれた目は揺れることなく私だけを見つめている。
「うばっちゃったー。」
いつだったかかなり昔に、そんなコマーシャルをやっていたのを思い出す。
あれはパペットを使っての疑似行為だけど。
私なりに可愛らしく、半分おどけて言ってみせるとジェジュンは笑いながら自分の手で顔を隠した。
細くなった目と緩んだ頬、そしてきれいな歯が少しだけ垣間見えて、ドキッとしてしまう。
口元を手で覆ったままジェジュンは目だけで私を捕まえにきた。
もちろん私はあっという間に捕えられてしまう。
言うまでもなく、至極当然なこと。
逃げるつもりがなければ逃げられるはずもない。
「……。」
笑みによって少し細められているにもかかわらず、相変わらずの眼力の強さ。
そしてその内には期待の色が込められているのが見て取れた。
私は黙って次の言葉を待つ。
「もう一回、うばって。」
ぽそりと呟かれたその言葉に笑みをこらえることができない。
なんて可愛らしい人なんだろう!
胸の中で爆ぜているこの慈愛を惜しむことなく体の中から吐き出してしまいたくなる。
一人で抱えるにはある意味苦しすぎるから。
幸せすぎて苦しいなんて、贅沢すぎる悩み。
催促された二回目のキスを終えたら、思いきりジェジュンに抱き着いてしまおう。
きっとジェジュンは笑いながら受け止めてくれて、同じように抱きしめてくれる。
そうしてくれることがわかりきっているから、余計に胸が高鳴る。
なんてすばらしいんだろう。
この人への愛で溺れてしまった私は、もう一生上がることはできない。
---------------
2015.10.5