帰路の電車の中でたまたま目にした美術展の吊り広告。



中学の美術の教科書に載っていて、当時の私がとても好きになった一枚の絵画を描いた画家の展覧会。


あのころは、いつか美術展に行ってこの画家のたくさんの絵を見てみたいと思っていた。




「(……次の休み、行ってみようかな)」





















有名で広い美術館。


それなりに多い来場者は、カップルや家族連れが多くなかなか賑わっていた。




「(わー、原寸大ってこんなに大きかったんだ。迫力あるー)」




お一人様見物は気楽でいい。


好きな絵を間近で見るために、時間を気にすることもなく列に並べるから。




好きだった絵を前に、あのころの思い出が小刻みフラッシュバックする。





「(でもなんでこの絵を好きになったのか、忘れちゃったな)」





何かよっぽど惹かれるものがあったのかもしれない。


そもそも絵が得意でも好きでもなかった私が、教科書をたまたまめくっていたら目にしただけの絵だったんだから。

















「あっつ……」




ゆっくり2時間ほどかけてすべてを見終えて、快適な空間から外へ出る。



遠くの方からセミの鳴く声が聞こえてきて、むわっと湿度の高い空気はあっという間に不快指数を上げた。






「(どこかご飯食べられるお店……駅前は絶対混んでるから、ちょっと裏道入って探してみよ)」






ほどなくして少し広い住宅街に入る。



近くにポツンと、小洒落たお店でもあるといいんだけど。





あてもなく歩いていると、風に乗って音楽が聞こえてきた。


一歩進むたびにはっきり鮮明に聞こえてくる。




見回した少し遠くに、学校が見えた。



この音楽は吹奏楽部の練習だったんだ。






「(あー……なんか、センチメンタルな気分ー)」






曲の一番の見せ場なのか、すべての楽器の迫力が風に乗って伝わってくる。




この暑い中、窓を全開にした音楽室で汗を流しながら一丸になってやってるんだろうな……



運動部も体温を上げながら、それぞれの目標に向かって一心不乱にやってるんだろうな……







音が止んだ。



途端にセミの鳴き声が耳に入ってくる。









「……青春、もう一回したいなー……」









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2019.07.27