「みんなー、お茶にしよー。」







階下のリビングから、の柔らかい声がボクに届いた。








室内の掛け時計は、もう3時に長針を合わせている。




今日も残すところあと9時間。








部屋の冷房を切って、ボクはリビングに下りた。












恋わずらい、夏のせい












「今日はメロンでーす。冷やしておいたからおいしいよ。」





「わー、おいしそうですねー!」








がトレーに乗せて持ってきたメロンに、チャンミンが目を輝かせて食いついた。





ボクと同じように自室から出てきたみんなは、口々に「うまそー」と呟いて椅子に座る。




ユチョンはさっきまで寝てたのか、髪の毛がボサボサだ。








「はい、ジュンス。」




「ありがと、。」




「…あ、」








ボクの前にメロンを運んでくれた手は、そのまま流れるように、ボクの髪に触れた。





触られる感覚が、くすぐったい。









「ゴミ、ついてた。」








そう柔らかく笑うと、はトレーを抱えなおしてキッチンに戻る。







のあの笑顔。




ボクはあの笑顔に、すごく弱い。





本当に、ふわっていう音がピッタリな、の笑顔。






あれを見せられると、きゅんってして、ドキドキして、だめなんだ。何もできなくなる。







この間告白して、やっと片思いじゃなくなったけど、




片思いしてるときより、ドキドキしたり胸が苦しくなったりする。





幸せだけど、ものすごく幸せだけど、両思いになってからのほうが重症な恋わずらいにかかってる。









「おい、ジュンス、大丈夫か?顔真っ赤だぞ?」





「熱中症かな…ちゃん、水持ってきてくれる?」









ボクの顔が赤いのは、夏の暑さのせいでも、熱中症のせいでもないのに。






ユノヒョンとジェジュンヒョンの言葉に慌てて反応してくれるが嬉しくて、ボクは本当のことを言わない。




みんなに迷惑かけることになってるけど、でも、いいよね?





ボクを心配してくれてるを、もっと見てたいんだ。











「ジュンス、大丈夫? 水、飲める?」




「メロンは冷蔵庫に入れとくよ。ジュンス、水飲んで横になってな。」








ジェジュンヒョンがメロンを持ってっちゃった。




まだ一口も手をつけてない、ボクのメロン。








「冷房の温度、1度下げるぞ。…リモコンどこだ?」




「はい、ユノヒョン。ジュンス〜、大丈夫?」







まさか、ここまでみんなに心配されるなんて。




悪いことしちゃった、っていうちょっとの罪悪感と、嬉しさがこみ上げてくる。






体はなんともないのに。




幸せすぎて、が好きすぎて、心が苦しいっていう、贅沢な病なのに。










「ジュンス、立てる…?」



「ん…。」



「ジュンス、部屋行こう――、えっ…」









立ち上がるのと同時に、ボクはをぎゅっと抱きしめた。




瞬時に広がるの香り。




それまでもが愛おしくて、抱きしめる腕に力が篭った。












「ジュン、ス?へ、平気…?」





「…おいこらジュンス。お前ってやつは〜!!」




「いてっ!」









ユチョンが膝でボクのお尻を殴った。




地味に痛くて、ボクは振り返る。








…バレちゃった…。





きっと、ニヤけちゃったからだ。



を抱きしめたときに、油断しちゃった。











「ホントに心配したのに〜…!」



「ユチョン、ごめっ――」



「チャンミン、冷蔵庫の中のメロン食べていいよ。」   「ありがとうございまーす!」



「え、ちょっとジェジュンヒョン、待ってよ!」








しかたないでしょ、幸せなんだもん。顔だってニヤけちゃうよ。






ユノヒョンと目を合わせると、苦笑いされてしまった。







「(ごめん、ユノヒョン。)」






ボクのために下げられていた冷房の温度は、また1度上がって元に戻った。









「ほんとに、なんともない?大丈夫?」








こんな状況になったのに、は真剣にボクのことを心配していた。




抱きしめられたまま、ボクの顔を覗き込むようにして。






大切にされてるなー、って思うと、やっぱり顔が緩んじゃう。






なんでこんな可愛いことしてくれるんだろ。



反則じゃない?




こんなんじゃ、大丈夫でも大丈夫じゃなくなっちゃうよ。









「…だめ、かも。」




「えっ?」







わざと力を抜いて、が倒れない程度にもたれかかった。




背中に回された腕が、あったかい。







部屋に行こうと何度も促すをそっと抱きしめて、耳元で囁く。











が好きすぎて、だめだよ。」








もう、どうにかなっちゃいそうで。




どうにでもなっちゃえばいいやって。







の顔が赤くなったのも、ボクの顔が赤いのも、何事にもやる気が出ないのも、





全部全部、夏のせいにしちゃえばいいんだ。












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2010.7.30

2010年、じゅんす短編第1作目。
もう夏です。半年振りのじゅんす短編作品…すいません(土下座)

みんなから愛されてるじゅんすと、ヒロインのことが好きでしかたないじゅんすを書きたかったんです。
夏っていいように利用しやすいですね(笑)