「……。」





どうしよう。




ボクは今、とても見てはいけないものを見てしまっている気分だ。






「……。(あれって…ブラジャー…?)」








単なるボクの勘違い








「ジュンス、コーヒーでいい?」



「えっ、あ、うん。お、お願いします。」



「ミルクと砂糖は入れちゃっていい?」



「(絶対…ブラジャーだ…。)あ、うん。」





一人暮らしをするの住まい。




女の子らしいもので囲まれたの部屋の片隅に、ボクが目にしたもの――つまりブラジャーが、放置されていた。





薄いピンク色のレースがあしらわれたそれは、パッと見は小物ポーチのようだ。



だけど。






「(あれって…肩ヒモ、だよねぇ…。)……。」






ポーチにはついていないはずのものが、ここからでもよく見える。





間違いない。



の部屋の片隅に、ブラジャーが放置されている。






「はい、どうぞ。」



「あっ、ありがとう!」



「…ジュンス、暑い?なんか顔赤いよ?」



「え、ううん。そんなことないよ。適温だよ。」






の手から手渡されたコーヒーを飲んで、とりあえず興奮気味の心を落ち着ける。






この年になって、彼女の下着を見てドキドキするとか…ないでしょ。




とりあえず、落ち着こう。



の下着なんて、何度か見たことはあるんだから。



それに、よく考えるんだボク。



下着だってもとをたどればただの布。




ただの布に興奮してどうする、ボク。







「……ジュンス今日静かだね。なにかあった?」



「うん、もとは布だから。ドキドキしないし。」



「…はい?」






たかが下着ひとつにこんな動揺することないじゃないか!




ただの布、ただの布!



時々が身につけるだけであって、あれ自体はなんてことない代物だよ!





落ち着かなきゃ。




ここはの家なんだ。



たとえの下着がほったらかしにその辺に落ちてても、当然のことなんだ。






「ジュンス、布って何?」



「当然な、代物…。」



「…だから、何が?」





大体、の下着は今までだって見てきたじゃないか。



直視だって…何度かしてるじゃないか。




中学生じゃないんだから、こんなことで興奮してどうする!?





目をそらせ。



意識を向こうに向けるな!




そうだ、あれは今ボクが着てるこのシャツと同じようなもの…!




変に意識する必要なんてない。



頭の中からあれを消すんだ!ボク!






「もしもーし。…仕事帰りで疲れてるんじゃない?」



「ボクのと、同じ…ピンクの布…。」



「…ブラックコーヒーでも飲んで頭スッキリさせる?」



「ただの――……ブラ?」



「は? さっきからどうしたの?ブラックコーヒー、飲みますか?」



「…あ、ああ…ブラック、コーヒー…。」






思わずビックリしちゃうような言葉が飛び出てきたと思ったら、とんだ勘違いだった。





一人でもやもや考えていたボクの顔を覗き込むような




「変なジュンス。」と微笑して、はまたキッチンに行ってしまった。






「(…ばれて、ない?)」






ボクがいろんな想像をしてたことに、は気づいてないみたいだ。




ホッと胸をなでおろし、再び淹れてもらったコーヒーを口にする。






「あ、、ブラックコーヒーはいらないよ!」



「はいはい。今クッキー持ってくねー。」



「…うん。」





がキッチンにいる隙に、ボクは再び部屋の片隅に視線を向ける。





寂しく放置されているの下着。






そろそろ、こういう小さなことでドキドキするのは卒業したいなと思うボクだった。








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2011.4.30

ひとりで悶々とするじゅんす。
きっと彼女の下着が部屋にぽいっと置いてあっても、騒ぐわけでもなく本人に教えてあげるわけでもなく、悶々するんだろうなと。
いわゆる、むっつり。