まるで夢を見ているみたいだ。



あったかい布団の中、大好きなを抱きしめていられるなんて。


シングルベッドだから、少し狭いけど。



それでもと一緒にいられることが、本当に夢みたいだ。





「まさか、仕事先に来てくれるなんて思わなかった。」


「ジュンスにどうしても会いたくなっちゃったから。ごめんね、迷惑だったよね。」


「全然迷惑じゃない。すっっっごく嬉しい。」





明日も朝一でスケジュールが入ってるけど、そんなの今は関係ない。



を潰しそうな勢いで抱きしめて、ボクはの名前を呼んだ。







impractical








「ジュンスってば、ずいぶん見ないうちにかっこよくなったねえ。」


「かっこよくなる努力をずいぶんしたからね。」


「そっかー、ジュンスはそんなことまで努力するんだ。…なんか、おかしい。」


「笑わないでよ、ボクは結構本気なんだよ。」




腕の中で口元を押さえながら笑う



その姿は最後に見たときと全然変わってない。


ボクの大好きなかわいい




「そういうは相変わらずだね。」


「んー、まあね。」


「かわいい。」


「…そういうこと真顔で言わないでよ、照れる。」





今度は真っ赤な顔を両手で覆った。


照れて耳たぶまで赤くなってるところも、相変わらず。




と顔を合わせるのはかなり久しぶりなのに、そんな感じが全くしない。



も同じみたいで、とてもリラックスした表情でボクを見ていた。





、キスしていい?」


「…いいよ。」





そっと唇が触れ合うだけのキスをしてから、好きだよと囁く。


が微笑んで、ボクも微笑む。



もう一度、唇を重ねた。




目の前の女の子が愛おしい、その感情だけが溢れている。



はボクを好きと言ってくれる。


ボクだけの、世界で一番大切な女の子。




「ん…ジュンス、キスは相変わらず下手だね。」


「練習しようにも、相手がいないから。」


「作ればいいのに。」


「ボクがキスしたいのはだけだよ。」




けたけたと笑いながら言葉を紡ぐその口を、もう一度奪う。



久しぶりのこの感触に、幸せな気持ちと切ない気持ちとが一緒くたになった。


胸が詰まって、涙が出そうになる。



堪えようと思っていたのに、叶わない。



ぽろ、と自分の目から涙が零れていく。





「ジュンス、泣かないで。」





の指がボクの目じりを払った。



両手で頬を包まれて、鼻頭にちゅっとキスをされる。




本当に、ボクはが好きだ。


好きすぎてどうしようもないくらいに。



これはきっと、一生治らない病気みたいなものだ。




きっと一生、治らない。






「………。」


「ん?」


「好きだよ。…好きだ。ずっとずっと、好きだ。」


「私も、ジュンスがだーい好きだよ。」




強く抱きしめたが、ボクの背中を擦る。




本当なら、安心感を抱くはずなのに。



背中を擦られるたび、ボクの涙は溢れ出す一方だった。






「…もう、いくの。」


「……そうだねえ、いかないといけないねえ。」


「……ねえ、。」


「なあに、ジュンス。」


「……どうして、…ここに、来れたの?」





完全に涙声。


嗚咽を堪え切れなくて、みっともない震え声。



それを笑いもせず、はボクの背中を擦り続ける。





夢みたいだと思ってた、これは夢じゃないけど、儚い夢想にふけているのと同じだ。






はもう、いないのだから。







「…神様にね、お願いしたの。最後に、ジュンスにだけ会わせてほしいって。」


「……最後って…3年も、前じゃん。」


「うん。3年間、会いに来れなかった。ごめんね、待たせちゃって。本当は、会いに来ちゃいけないんだ。」


「じゃあ、なんで…」


「私の最期の日から今まで、ジュンスに会いたいっていう気持ちが増す一方で、このままだと怨念みたくなってジュンスに悪影響になるかもって。神様が許してくれた。」


「……だから、」


「そう、だからジュンスに会いにこれたんだよ。…ずっと、会いたかった。」





苦しくて切なくて悲しくて嬉しくて、愛しくて。




もう二度と会えないと思っていたが、こんな突然ボクの目の前に現れるなんて思ってもいなかったから。


心臓が一瞬止まるくらいビックリしたけど。


それよりも、二度とないと思っていた再会に対する喜びのほうが何倍も勝って。



信じられないなって思いながらも、と昔みたいに普通にしゃべっていられたけど。



もう、限界みたい。





堰を切ったように涙が零れる。


は対照的に、微笑を浮かべながらボクの頭をずっと撫でていた。





こうして触れられるのに、


キスをすることだってできたのに、



最愛の人との未来を築くことができないなんて。





「ジュンス、いっぱい好きって言ってくれてありがとう。」


「…っ、、ぅ、ボクも、連れてって。」


「ジュンス。私も大好きだよ。ずっと、ずっと。いつまでも、愛してる。」


「っ、…っ、」





急に、瞼が重くなった。



が、いってしまう。



直感的に、そう感じた。




とめないと。


もっと、話したいこと、伝えなきゃいけないこと、いっぱい、ある。



いかないで、いくな、って、叫ばなきゃ。





意識がどんどん、薄らいでいく。






「ごめんね、悲しませてばっかりで。ジュンス、大好きだよ。」


「…う、……、……い、かな……」






フワッ、と風が吹き通るような気配がした。



宙に伸ばしていた手ががくりとベッドに落ち込む。


手のひらを包まれるような感覚の中、ボクは意識を完全に手放した。






――…今度出会うときは、二人でおじいちゃんおばあちゃんになるまで…一緒にいようね。――














ボク、言えなかった。




会いに来てくれてありがとうって、言えなかった。










ありがとうって、言わせて。


お願い。


またボクに、会いに来てよ。





ねえ、









---------------
2013.11.22

書き上げてから今日がいい夫婦の日だということに気づきました。よりによってこの日に、書くか、と。

たぶん死ネタは初めて書いたと思います。
読んでて少し涙がぽろっ、と出るようなお話を書きたかったんですが、感動作品を書くって本当に難しいですね。
素人には至難の業でございます。