時折くいっと持ち上げて位置を直す仕草。


それをはじっと見つめながら、似合わないなあと心のうちで呟く。



当のジュンスはそんな視線を向けられているとも知らずに手元の小説に没頭している。



ジュンスの新曲がかなりの音量で流れる中で、正しくは手元の小説に没頭している”ふり”をしている。





「はーいカットー!」





野太い声を合図にジュンスは本から顔を挙げ、くしゃりと笑って首を曲げる。


そんな仕草をは見つめながら、




「(やっぱりジュンスに眼鏡は似合わない。)」




相変わらず頬杖をつきながら軽く息を吐いた。






No Frame






ジュンスのソロ名義での新曲のミュージックビデオ撮影。


その現場に招かれたは、スタッフたちの使う席に腰を下ろしてずっとその様子を眺めていた。



衣装スタッフやらメイクスタッフたちがカットがかかるたびにジュンスのもとに行き手直しを加えている。


撮影監督は陽気に笑いながらジュンスと演出について話し合って、カメラマンは次の位置取りを早々に始めている。




何もかもがにとって新鮮な状況で、ジュンスの眼鏡姿もまた新鮮だった。




しかし、は彼の眼鏡姿にいまいち納得していなかった。



先ほどから似合わない、とそればっかり考えている。





「(色の問題かな?フレームの形?……違うな、根本的に似合ってないんだな。知的に見えないし。)」




誰からかもらったアイスコーヒーを口にしながらジュンスを見つめつつ好き勝手に評価する。



一応こんなでも、ジュンスの恋人ではあるのだが。




周りのスタッフはジュンスの眼鏡姿を褒めていたりしているところを見ると、の感性が若干周りとずれているだけらしい。





「(早くはずしてくれないかなあ…。)」




「次のカットいきまーす!」





ばたばたとスタッフが動き回る中、ジュンスの視線がのほうに向けられる。



突然にぶつかった視線にが驚いていると、ジュンスはばちんと音がするようなウインクを一度放って、撮影が始まった。


すぐさまポーズをとって、流れる歌に合わせて歌うジュンス。



ウインクをよこした表情とは真逆の、まるで別人のような雰囲気だ。



身に纏っている衣装もあいまって育ちのいい青年のような見た目。





「……ジュンス。」




今はカメラにだけ向けられている真っ直ぐな視線。





『いつか君だけの王子様になりたい』




撮影のために流されているジュンスの歌声、歌詞がの耳にやけにはっきりと聞こえて、は思わずはにかんでしまう。





「もう、とっくに、王子様だよ。」





感情を込めて歌うジュンス、そして彼を眺める



似合わないと思っていた眼鏡姿も、長い間見ているとなんとなく馴染んできたようにも思えて。


眼鏡越しにカメラを睨みつけるジュンスも悪くないなと思えるようになって。





「(でもやっぱり、早くはずしてほしいな。)」






---------------
2014.10.6

歌詞がべたべたですいません。
めっちゃ恥ずかしい。


お題「眼鏡をかけた王子様」:ロストブルーさま