呼んでもらいたいのに、呼んでもらえないそんなときは、
頭の中でたくさん呼んでもらうの。
、って。
上手に妄想できればそれだけで満たされる。
だけどそうじゃないときはむなしくなるだけ。
その差が激しすぎる妄想は、それでも時として私の拠り所になるものだから。
ジュンスの声を思い出して、想像して、あの声で私の名前を呼ばせる。
何度も。
好きになったもん負け!
こんなことを続けているから、誰のどの声でも、ある程度リアルに名前を呼んでもらうという妄想が上達してしまった。
何の得にもならない……や、私の気晴らしにはなるか。
かといってそれだけで、たいして役にも立たないことだけがどんどんうまくなっていくというのも考えもので。
だいたいなんでこんな妄想をし始めたかというと、説明するまでもなく直接名前を呼んでもらえないから。
それも長期間。一応、恋人という関係でありながら。
スクープ発覚を避けてデートはおろか家で落ち会うなんてこともほとんどないし、忙しいあちらさんから電話の一本もろくにかかってこない。
これで、ジュンスは私の恋人なのだ。一応。念のため、言っておくと。
恋人。
……本当にそうなんだろうか。
一時の遊び相手に選ばれただけで、私が未だに交際を続けていると思い込んでいるだけなんじゃないかと最近思うようになってきた。
だって彼女の声も聞かなければ会いに来もしないって、おかしくない?
彼女だよ? 私。
なんでこんなにほったらかしにされてるんだろう。
会えなくても、連絡の一本はしてくれてもいいよねえ?
仕事が忙しいからとかさ、いいわけでもなんでもいいから声くらい聞かせてくれたっていいんじゃないの?
っていうか向こうは私の声すらも聞きたくないのか?
長らく音信不通状態が続き、荒む一方の私の心……
同情してくれる友達はついに肩に優しく手を置いて「別れろ。」と一言だけ呟いてきたことがある。
曰くお互いのためにならん、傷が浅いうちに身を引いて、釣り合う相手じゃなかったと諦めろ、とのこと。
あれ、今考えるとこれ友達にも傷つけられてないかね?
そこで突如着信音が鳴る私のケータイ。
画面を見ると、なんとまあご都合主義のような話なんでしょう、ジュンスの文字。
なぜだか電話を耳に着けて会話をしたくなくて、スピーカーボタンを押してから通話に出る。
声を聞くのはいつ振りだろう。
『もしもし、久しぶり!元気だった?』
開口一番がそれか、まるで恋人らしからぬ会話だなあと他人事のように考えてしまうあたりもう熱が冷めているのかもわからない。
うん、と気の抜けた返事をすると、ジュンスは最近リリースしたとかいうアルバムの売れ行きを嬉しそうに報告してきた。
今後ライブの予定があるだとか、ドラマに出演が決まっただとか、そういう話が続く。
なんで私はこの人を好きになっちゃったんだろうなあ。
「あのさ、ジュンス。なんか言うことあるんじゃないの?」
『へえ?』
「へえ、じゃないよ。もう……いいや。なんでもない。」
頭の中ではあんなに名前を呼んでくれるジュンスは、現実では未だに名前を呼んでくれない。
久々の会話だというのに。
通話を開始してからもう結構経つというのに。
なんで私に電話なんてしてきたんだろう。
考えれば考えるほどむなしくなってくる。涙でてきそ。
この人がマイペースだっていうのはわかってたけど、ここまで来ると腹立たしさを通り越して悲しくなってくる。
選んでしまった自分自身の情けなさに。
『あの、さ……あの、明日、ひま?』
いきなりおずおずとした声で何を言い出すかと思えば、ようやく会う気になったのかそんなことを言い出すジュンス。
うん、とさっきからそればっかりだなあと思いながらも返すと余計ソワソワした声が返ってきた。
『あ、会いにいっていい?久しぶりに……会いたい。。』
返答するのに時間がかかってしまった。
あんなに呼ばれたがっていたのに、いざこう呼ばれると固まってしまう。
こんな久々に、本物のジュンスの声で、
妄想の産物とは全く違う、照れと緊張と焦燥の入り混じった声が、
「……もっと呼んで。」
やっぱり本物にはかなわない。
単純なせいで荒んでいた心もすっかり穏やかになって。
スピーカーモードを終わりにしてすかさず電話口に耳を近づける。
リアルよりもリアルな声が、何度も何度も私の声を呼んでくれた。
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2015.9.15
走り書きの産物。