琥珀色の誘惑
半年間の片思いに終止符を打とうと思って、バッサリとフッてもらうために告白してから早2年。
思いがけずも成就してしまった恋のお相手は、今も私の隣にいる。
「、ウィスキー飲む?」
「んー……ひとくちだけ」
正面切ってフラれれば、未練がましい思いも断ち切れる。
友だちの助言に背中を押されて、断られることを前提に告白した2年前の私を抱きしめてやりたい。
右手の薬指にはめているジュンスからもらった指輪を触るたびに、過去のことを何度も思い出す。
「はい、ひとくち」
「えっ多い!こんなに飲めないよ」
「ゆっくり時間かければ大丈夫だよ。ロックだし」
「余計ダメな気がする……」
広いソファなのに、私にくっつくようにせせこましく座ってくるジュンス。
さも自然な流れだとでもいうような顔で肩に回された腕は、私が距離を取ろうとすることを許さない。
話題のドラマを見ながらウィスキーに口をつけ、ときどき頭をもたれかけてくるかと思えば、背筋を伸ばしてテレビに見入る。
そんなジュンスとは正反対に、あまり興味のないドラマに集中できない私は彼に肩を抱かれたまましなだれかかっているだけ。
真剣に話の行く末を見ているジュンスに声をかける気になれず、目の前のウィスキーをこれ以上口に含む気にもなれなくて、だんだんと意識がぼやけてきた。
人のぬくもりの暖かさと、ほどよく回った酔いに引きずられて、睡魔がどんどん襲ってくる。
「」
ジュンスの声がはっきりと私の名前を呼んだ。
少しずつ、うっすら視界が開けてくる。
目の前にはジュンス、その向こうには見慣れたリビングの景色、天井。
「……なに?」
「はは、起きた」
「……ジュンスが起こしたんじゃん」
いつの間にかソファに横になっている私の上に、覆いかぶさるように跨っているジュンスは楽しそうに笑っている。
たぶん、私の寝ぼけた顔を見て堪えきれなくなったんだろう。
優しく頭を撫でてくれた次の瞬間には、2回もキスが降ってきた。
「ジュンスお酒臭いね」
「が飲まなかった分も飲んじゃったから」
「ふーん。……どいてくれないの?」
「どうしよう?」
言葉尻にかぶせるようにジュンスのスマホが鳴り出した。
この着信音は、たしかマネージャーからの電話の音。
「ジュンス、鳴ってる」
「ね。うるさいね」
「じゃなくて、出なきゃ。仕事の電話かも」
「いいよ、あとでかけ直すから」
目の色が変わった。
そんな気がして、私は次の言葉を発せない。
「おいしいウイスキーと肴に手を出したら止まらなくなっちゃってました、すいませんって謝れば、マネージャーもきっと許してくれるからね」
お酒の匂いを漂わせて、首筋にキスが降ってくる。
その間もずっと鳴り続けている着信がだんだんと遠くなっていくような気がして、私もダメな大人になっちゃったなあ……なんて思いながら目を閉じた。
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2021.03.27
在庫一掃、第3弾。
書きかけの段階では裏用だったっぽい(覚えてない)