ジェジュンの口が色気を漂わせて開かれる。
私はその口元に、一枚のクッキーをゆっくりと運ぶ。
クッキーを受け取るとき、私の指先ごと口に入れたり、指に吸い付いたり舌で舐めたりしてくるジェジュン。
羞恥心を押さえてこんなことに付き合ってあげている私の気持ちを、わかっているのだろうか。
何度繰り返したかわからない、まるで餌付けをしているような気分になってきた私が、もういいかと口を開こうとしたそのとき、
「、ここに跨って。」
自分の腿に手をやりながら、私に拒否権を与えさせない頼みごとをしてきた。
ちゃんとおしえて。
腰に回された手は優しいのに、しっかりとした強さで私が距離をとろうとするのを制している。
他人に内面を探らせないポーカーフェイスが、じっと私を見上げていた。
「。」
大きくも小さくもないジェジュンの柔らかい声。
一言私の名を呼んで、再び色気を漂わせて口を開く。
私がクッキーを供給する間も、大きく澄んだ瞳が私から外れることはない。
何もかもが美しく女でさえ嫉妬してしまいそうな美貌を持つジェジュンは、見た目に反してとても”男”の塊である。
それは付き合う前から薄々わかっていたことで、付き合ってからは身に染みるように感じている。
内に秘める情熱の熱さ然り、本能を殺さない彼はまさに男である。
最初は意味がわからなかった、ジェジュンが今私にさせていることも彼の本能の赴くまま。
「トリックオアトリート」なんて突然言い出して、反応に遅れた私の首筋に吸い付いてきたことも。
いたずらされるのがいやだったら、私の手でお菓子を食べさせろと言ってきたことも。
隠そうともしていない下心を見せ付けるかのごとく、私の指に執着していることも。
彼は仕事上ではとてもストイックな人間だ。
だから理不尽なことも、本能的に嫌悪を示すことにも、向き合っていく。
その分解き放たれてしまえば、とても自分に素直になるのかもしれない。
「…気は済んだ?ジェジュン。」
それでも、もうそろそろ私も限界だ。
こんな小っ恥ずかしいことをいつまでも我慢できるほど。忍耐力はない。
指先に当てられる唇の意図を理解してしまっているから、なおさら。
「このクッキー、甘ったるいね。」
ふわりと笑みを浮かべて細められた目が、本当の要求を訴えてくる。
腰に回っていた片方の手が私の頬を撫でる。
大きな手は、頬だけでなく後頭部近くまで包み込んでいた。
ジェジュンに従うがまま、彼のほうへと体を近づける。
重なり合う唇から、さっきまでジェジュンが食べていたクッキーの味がして、確かに甘ったるいなと思った。
口内に入り込んできたジェジュンの舌が熱い。
なかなか解放されず、声とも息とも取れない音を漏らすと、ジェジュンはより深く私の唇を食んだ。
絡み合う舌の熱さと、甘すぎる刺激に、とうとう私の羞恥心も我慢の限界を超える。
力いっぱいジェジュンの肩を押して、半ば強制的に距離をとった。
それでも腰に回されたては私を膝上から下ろしてはくれない。
ジェジュンは不服そうに見つめてくる。
「、なんでやめちゃうの?」
「なんでもなにも…」
「いたずら、してほしいの?」
いつまでそんなことに執着しているつもりなのか。
ジェジュンは未だに”トリックオアトリート”を引きずっているらしい。
言葉に詰まる私を見て痺れを切らしたのか、再び唇を寄せてきた。
軽いリップ音を立ててキスが落とされる。
キスを続けようとするジェジュンの頬を両手で包み込むと、不満げに揺れる瞳が私を捉えた。
腰に回る手に力が篭っている。
「そんな回りくどいことしないで、ストレートに言ってくれればいいのに。」
私のその言葉に、ジェジュンは少しだけ言葉を詰まらせていた。
その姿がおかしくて、私はついつい苦笑いしてしまう。
「いつもはストレートなくせに、今日はどうしちゃったの?」
「…ハロウィンだし、たまには遠回りしてもいいかなって思って…。」
「でもちゃんと言ってくれなきゃ、なにをあげればいいのかわからない。」
頬に添えていた手を下ろそうとすると、ジェジュンが片方の手を掴んだまま真っ直ぐ私の目を見た。
ようやく、本当の要求を口にするらしい。
ハロウィンだから、なんて口実抜きに、いつものように自分に素直になるジェジュン。
「が食べたい。」
直球過ぎる言葉に、やっぱり私は笑ってしまう。
そう、あなたはそういう人だから。
「いいよ、あげる。」
ハロウィンでもなんでもなくたって、いつでも。
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2013.11.2
ハロウィンに上げたものが甘さのかけらもなかったので、こちらは甘くと思ってたら…甘いのかなぁ。