、こっち向いて。」


「え? ……また撮ってるのー?」




無機質なスマホの側面が向けられたその先に、嬉しそうな顔をしてユチョンが立っている。


ほら笑ってと催促をされ、むずむずとした恥ずかしさを抱えたながら口角が上がる。





「もう恥ずかしいからやめてよー…」





暇な時間を見つけてはスマホのカメラで私を撮影するユチョン。


これがいつから始まったのか、はっきりとした時期はもう覚えてない。


それでも確かにいえるのは、かなりの量の画像・映像が収められているということ。



出かけた先や何気ない日常のシーンでも、ユチョンは時間さえあればスマホを片手に私を映す。



理由を聞いてもなんだかんだはぐらかされるだけで、私はそんなユチョンを好きにさせている。






「オレ相手に恥ずかしがることなんて何もないって。」


「口では簡単に言えるけどさー。……カメラ向けられ慣れてるユチョンと違って、やっぱ恥ずかしいもん。」


「はは。乙女の恥じらいってやつ?」





ユチョンもよく、こんな平凡な私なんかを撮ってて飽きないなあと少し感心しつつも、こうして毎日が過ぎていく。






そしてあっという間に年の瀬、クリスマスの季節になった。




少し前までは二人でプチパーティーとかやってたけど、さすがに歳を重ねると感動が薄くなるというか…



いつも一緒にいることもあってクリスマスというイベントがそこまで重要でもなくなってきて。



ユチョンも私も、ちょうど休みが重なったので家で大人しくまったりと過ごそうということになった。




いつもと変わらずに買い物に出かけて夕食を作って二人で食べて、お風呂に入ってからソファでコーヒーを飲みながらテレビを見る。


番組はクリスマス一色という感じで、どこの局に回してもクリスマスソングが流れてくる。





、いいもん見せてあげよっか。」


「なに?プレゼントかなにか?」


「んー、まあプレゼントになるのかなあ。」




そう言って持ってきたのは一枚の白いCD。



まさかとは思うけど、私のために曲を作ってきてくれたとか、そういう感じなのかな?


と思いきや、ユチョンはそれをレコーダーの中に入れた。





「なに?DVD?」


「そ。」





ふんぞり返りながら横に座って得意げな顔でリモコン操作をしている。



ユチョンの小さなくしゃみを合図に、そのDVDは始まった。





途端画面に映ったのは私が寝ている映像。






「え!?」


「オレのコレクション。DVDにしてみました!」


「ちょ、やだやめてよ、恥ずかしい!」


「だってー。はDVDでいつでもオレのこと見れるけどオレはそれできないじゃん?だから作った。」


「意味わかんない!」




今まで撮り溜めされていたと思われる映像・画像が上手く編集されてドキュメンタリー映像みたいになっている。





ー、今日なに作んの?』


『ハンバーグ……もう、いい加減撮るのやめてよー。』


『今日のメシはハンバーグでーす。美味しく作ってくださいねー。』


『もー……』





「こんなの見ても楽しくない!」


「楽しいよ、オレが。」


「〜〜〜っ、消す!」


「待って待って、一回だけ、最後まで見てって。」





抱き押さえられる形でソファから動けなくなってしまった。



居心地最悪のこの状況でずっと下を向いて顔を背けていると、横でユチョンが苦笑いをしている。


なんだってこんなのを見なきゃいけないんだと思う反面、私がユチョンのDVDを見てるときもこんな感じなのかと少し複雑な気持ちになった。



もっともユチョンはもう慣れちゃっただろうけど。





本物が横にいるのに、ユチョンの顔はしっかりとテレビの画面に向いている。


思い出したように笑って、慈しむような表情で流れる映像を見ている。




自分に嫉妬するって、おかしいことなんだけど。





「こっから、もよく見て。」


「……。」





映し出されたのは再び熟睡している私。



……?


これ――昨日?





ー……バッチリ熟睡中。よし。……ふーっ。』





カメラのアングルがゆるりと回されてユチョンの自撮りになる。


そこにはサンタ帽をかぶった、そわそわしているユチョンの顔。




『1日早いけど。ユチョンサンタです。えー、っと……プレゼントと一緒に、オレのお願いを置いていきます。』





まさかユチョンがこんなことをしてたなんて全然知らなくて、いつの間にか驚きながら画面を食い入るように見つめていた。



ユチョンの手のひらに収まるほどのサイズのラッピングされた袋が画面に映ると、それは熟睡する私のほうへと移動していく。


ふーっと小さなユチョンのため息が入り込んでいて、静かさがやけに際立つ。



プレゼントはユチョンの手によって、私の枕の下へと器用に潜り込まされた。




『プレゼントとお願いの中身、確認してみてください。以上っ。』




このシーンだけ編集されていなかったのか、DVDはそこでブツリと切れて画面はブラックアウト。




静かになったリビングで、私とユチョンは顔を合わせたまま。


一言を発するのに時間がかかった。





「……ユチョン、」


「今、確認してみる?」




気づけばユチョンの顔はDVDの中と同じで、そわそわと少し落ち着きがなくなっていた。



誘導されるまま寝室に入って枕の下に手を入れると、確かにあった。プレゼントの袋。





「全然気づかなかった……」


が鈍感でよかったよ。朝も起きるなりすぐリビング行っちゃうから大丈夫だとは思ってたけど。」





早く開けてみてと催促されて、ドキドキしながら袋を開ける。


そこには小箱と一枚のメッセージカードが入っていた。





オレと結婚してください。





控えめだけどしっかりとした文字がそこには並んでいた。




小箱にはキラリと光るシルバーの指輪。





「こんなクサいこと、するつもりなかったんだけどさ…なんか、こう……ありきたりにはしたくなかったっていうか。」





驚きすぎて固まっている私を見て、ユチョンは笑いながら指輪を薬指にはめてくれた。




今年のクリスマスの、予想もしてなかったプレゼント。





「オレ、意外とこういう演出しないと、こういう大事なこと言う踏ん切りがつかなくってさ。」


「……うん。」


「…で、……答え、聞かせてほしい。」


「もちろん、謹んでお受けいたします。」


「ぶはっ、、混乱しすぎ!」


「え?間違ってる?」





こんなサプライズがあるなんて、本当に心の底からびっくりした。


私なんてプレゼントすら用意してないのに。



それを謝罪とともに告げると、ユチョンはさっきまで画面越しに向けていた慈愛の表情を浮かべて




「これでいい。」




それだけ言って、私にそっとキスをした。







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2015.01.03