吸い込む息の冷たさに身体が震える12月。
年末の特番や生放送番組に向けた準備や撮影で、日に日に忙しなくなっていく。
世間はクリスマスの準備でにぎわっているが、今年もどうせ仕事だし……とジェジュンは冷めた気持ちで過ごしていた。
そもそもクリスマスを過ごす特定の相手がいるわけでなし。
フリーだからこそ、仕事に精を出して楽しくやろう。
22日から25日にかけて、ドイツでのスチール撮影が入っている。
少々弾丸日程ではあるものの、撮影が終われば軽い観光ができるはず。
そこでメンバーやスタッフたちと楽しく過ごせればそれでいい。
年末特番のロケバスの車内、テンションが少しだけ上がったジェジュンは一人鼻歌を歌いだす。
上機嫌にドイツの観光名所を検索していると、メッセージの通知画面の切り替わった。
その差出人名に思わず目を見張る。
――実家から大量にみかんが届いたの。食べきれないからお裾分けしたいんだけど、暇なとき取りに来れる?
絵文字も顔文字もない簡素なメール。
しかし、ジェジュンの心は少年のように高鳴る。
文面を何度も読み返し、脳裏に浮かぶのは長いこと会っていない幼馴染。
本文から一行あけて、彼女の住所が書き記されていた。
宿舎から車で40分弱の距離。
意外に近くに住んでいたんだなとますます嬉しくなる。
ジェジュンはこのあとの予定を確認すると、携帯を握りしめながら落ち着きなく返信文を作り上げた。
――今夜20時に行くよ。久しぶりに軽く飲もう、お酒買ってく。
最後にと会ったのはいつだったか。
お互いに仕事が忙しく、連絡先こそ知ってはいたもののやり取りをしたことは数える程度。
正月休みなどで実家に帰省した際に軽く酒を酌み交わすくらいにしか記憶に残っていなかった。
それでも彼女はいつでもジェジュンの良き幼馴染であり、良き友人であり、応援者だった。
そんなにうっすらと慕情を抱いたのは、もう何年も前のことになる。
もしかしたら、もっとずっと前――小さいころからすでにに恋をしていたのかもしれない。
そんな淡い気持ちを抱きつつも、との接点がほとんどない日々が続き早数年。
その間に恋人ができたり、別れたりを繰り返してきたが、への気持ちがなくなったわけではなかった。
そのことを改めて今日実感した。
たった一通のメッセージで、こんなにも喜べるとは自分でも思っていなかった。
特番向けの撮影を終え、ジェジュンは一人足早に帰宅すると急いで愛車のセルを回す。
ナビにの住所をセットし、途中のコンビニで缶ビールなどを買い込みの家へと向かった。
8階建ての小奇麗なマンション。
オートロック越しに聞いた久々のの声に、改めて胸が高鳴る。
エレベーターで6階まで上がり、ついに部屋の前までやってきた。
緊張気味にインターフォンを鳴らす。
ドアの鍵が解除される音。
ガチャリと音がして、自分よりも背丈の低い家主が顔を出す。
「いらっしゃーい。お疲れのとこ、来てもらっちゃってごめんね。」
の笑顔につられて、ジェジュンも顔をほころばせた。
最後に会った時と変わらない笑顔、落ち着くトーンでしゃべる声。
カジュアルな服装が好きなところ、小さなストーンピアス、変わったところといえば茶髪になったくらい。
ふわりと笑うに酒を手渡して、通されたリビングでほっと息をつく。
シンプルなインテリアはが好みそうなものばかりで、腰掛けたソファもなかなか座り心地がいい。
ジェジュンを待つ間に作られたつまみがテーブルに所狭しと並べられる。
「おいしそ〜。」
「さ、座って。乾杯しよ。」
久々の再会のはずなのに、妙な距離感が生まれないことがジェジュンには嬉しかった。
程よい安心感と居心地の良さに、ほころんだ顔はどんどん緩んでいく気さえする。
の手料理を食しながら酒を嗜むとは、なかなか充実感が満たされる。
リビングで二人きり、テレビもつけずに気の向くまま食べたり話したりするこの空間に、かけがえのなさを感じた。
「、元気そうでほっとした。」
ジェジュンの言葉に、一瞬口角を上げて反応を見せた。
少し考えるような顔をした後、ビールの入ったグラスを見つめながら口を開いた。
「仕事やめたんだ。」
表情は穏やかなまま。
ジェジュンと視線を合わせると、耐えきれなくなったようにへにゃりと笑って無言であることに水を差す。
熱心に仕事に打ち込むを見てきたジェジュンとしては、この発言には驚かされた。
自分の仕事に誇りとやりがいを感じていたのは確かだったし、愚痴の一つや二つ出ることはあってもチームの後輩や上司たちとの関係も良好だったはず。
ジェジュンに仕事の話をするときはとても楽しそうにしていたのを、ついこの間のことのように覚えている。
そんな彼女が、まさか退職していたとは。
「いつ?」
「2日前。やめたいって話は先月にはしてあったから、まあ引き継ぎとかして……って感じで。」
「……次の職場は決まってるの?」
「んー、ちょっとゆっくりしようかなって思って。まだ職探しもしてないの。」
少しは貯金で暮らせるしね、と眉を下げて笑う。
彼女が煽ったグラスの中身はすでに空。
冷蔵庫から新たにビールを取り出し、景気よくプルタブを引き上げる。
ちょうど伏し目がちになった彼女の表情を見て、ジェジュンは考えもせずに言葉を発していた。
「じゃあ、仕事終わりに遊びに来てもいい?」
グラスの淵ぎりぎりのところでビールの泡が動きを止めた。
きょとんとしたは、ぎこちなく頷きながら残りのビールをジェジュンのグラスに注ぐ。
「いいけど、うちにいても全然楽しくないと思うよ?」
「そんなことないよ。といろいろ話してるだけでも楽しいんだから。」
そんな言葉にの顔色が少しも変わらないのは、幼馴染という関係だからか。
「ふーん。」と、納得したのかどうかあいまいな返事だけをして、は再びビールに口を付けた。
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2016.12.27
大遅刻ですけどクリスマスの話。続きます。