「ねえ、ジェジュン。」
「なに?」
「毎日来てて、飽きないの?」
「うん、飽きない。」
久々に再開したあの日から、ジェジュンは毎日の家に上り込んでいた。
仕事が終わると『終わった!』とだけメッセージを入れて、返事を待つわけでもなく車で向かう。
その日の現場でもらった差し入れは、いっさい手を付けずに持ち帰りそのままに横流し。
今日にいたっては「僕が料理するね。」と食材を買い込んでやって来た。
意気揚々とキッチンに立つジェジュンを眺めながら、はテーブルに頬杖をついて夕飯の完成を待つ。
迷惑だとか来られるのが嫌だという感情はまったくない。
ただ純粋に、変わり映えもしないこの部屋に毎日来ていて、飽きないのだろうかと疑問に思った。
いくら幼馴染とはいえ、一週間近くも会っていたら話題もそろそろ尽きてくる。
ジェジュンほどのステータスを持っていれば多業種の人間から誘いの声はかかるだろうし、楽しめる遊び場の情報だって持っているだろう。
しかし彼が顔を出すのはクラブでもパーティー会場でもなく、の家だった。
純粋な疑問から問いかけただったが、本人が飽きないと言っているのだからと詮索するのをやめた。
上機嫌に鼻歌を歌いながら手を動かすジェジュンは、いささか楽しそうに見える。
「ほんとに手伝わなくていいの?」
「うん、今日は僕がやるから。待ってて。」
何か聞かれたら動けばいいか、とは大人しくジェジュンの言葉に従った。
テレビをぼーっと眺めたり、ツイッターをチェックしたり、ゲームをしたり。
声をかけられるのを待っているうちにいい匂いがキッチンから漂い始め、はその匂いに自然と引き寄せられる。
「ジェジュン、ほんとに料理得意だったんだね……。」
「ウソだと思ってたの?」
「ウソっていうか、テレビ用に盛って話してるのかなって。」
「なにそれ。」
感心しきっているを見て、思わず堪えきれずに吹き出してしまう。
サラダやスプーン、フォークの配膳をに頼んで、ジェジュンは最後の仕上げに取り掛かった。
「はい、おまちどおさま!力作だよー。」
「……逆じゃない?」
の前に置かれた深皿には、できたてのオムライスが湯気を立てている。
表面にケチャップで書かれているのは『JJ』の文字とスマイル。
ジェジュンのオムライスにはの名前がローマ字で書かれている。
ニコニコしながらスプーンを掴んだジェジュンは、
「人のものっておいしく見えるじゃん。」
とだけ言ってオムライスを掬った。
もそれ以上追及することはなく、いただきますとオムライスを口に運んだ。
程よい酸味のチキンライスと、まろやかな卵が口の中で混ざり広がっていく。
「おいしい……!」
「でしょー。」
普段、めんどくささにかまけてオムライスなんて滅多に作ることがないは、久々の味に興奮気味に手を進める。
そんな姿を見せられては、いやおうなしに表情筋が和らいでしまう。
何度も「おいしい」と言いながらオムライスを頬張るに、つい昔の姿を重ねて思いを馳せた。
あの時から根本は何も変わっていない。
ジェジュンもも。
「ごちそうさまでした!ジェジュン、ほんとおいしかったー。また作ってね。」
「うん、もちろん。」
食後はの淹れるコーヒーで一息つく。
ジェジュンが毎晩訪れるようになってから、暗黙の習慣となっていた。
が淹れる、少し濃いめのブラックコーヒー。
インスタントの味ではあるが、ジェジュンはこのコーヒーの味を気に入っていた。
慣れてしまえばほかのものでは少し物足りなくなる。
「ジェジュン、時間平気?」
「うん、もうちょっとしたら帰るよ。」
本当は帰るのが名残惜しい。
毎晩、タイムリミットが迫るたびにそう思う。
しかし翌日の仕事のために、ずっとのもとにいるわけにはいかない。
少しでも時間を稼ぐために、いつもより時間をかけてコーヒーを味わった。
「は今日一日、何してたの?」
「今日はふらーっと買い物行ってきた。すぐ帰ってきちゃったけどね。」
「混んでた?」
「日曜だからねー。ちょうどセールも始まったし……」
こんな他愛のない会話でも、不思議と退屈に感じない。
お互いに、この一息つく時間を大切にしているし安らぎを覚えている。
たとえ会話が途切れてしまっても、気まずくなることはない。
もともと幼馴染という間柄というのもあるが、この6日間でかなり心を許しあえるようになっていた。
その理由に、二人ともがうすうす感づいている。
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2016.12.27
オムライスはしっかり焼かれた卵のほうが好きです。