いつものようにインターホンが鳴り、ジェジュンの来訪を告げる午後9時。
パーカーを羽織りながら出迎えると、目の前に大きなビニール袋が差し出される。
有名な雑貨屋のロゴが入った袋。
それを持ちながら、ジェジュンはにこやかに「あげる。」とほほ笑んだ。
「おっきいね、何が入ってるの?」
「開けてみて。」
静かにドアが閉まる音を合図に、二人並んでリビングに向かう。
袋の中身に期待を膨らませるを横目に、距離の近さを実感するジェジュン。
今までとは別の、違った種の親密さにくすぐったさを覚えた。
「かわいいー!」
包みを開けて顔を出したのは、1メートル弱あるウサギの抱き枕。
手触りがよく、程よい弾力があるクッションの抱き枕に、は目を細めて顔をほころばせる。
嬉々とした表情でお礼を告げたは、喜びのあまりか後ろ向きにソファにダイブした。
沈み込んだソファでも満面の笑みでウサギを抱きしめている。
「そんなに嬉しいの?」
「うん、だってこれモフモフしてて気持ちいいし。かわいいし。ちょうど抱き枕買おうと思ってたの。」
「そうだったんだ。」
「でも、どうして?クリスマスプレゼントってこと?」
ウサギの後ろ姿越しに見えるの笑顔。
上目がちな視線はまっすぐにジェジュンを捕らえている。
胸を打つような感覚に言葉を詰まらせながら、上がる心拍数を悟られないように深呼吸する。
改めてと同じ空間にいる現実を噛みしめた。
「ちょっと早いけどね。かまってくれてるお礼もかねて。クリスマスはドイツで仕事だから、今のうちにと思って。」
「ドイツ行くの!?大変だね……。これ、ありがとう。大事にする。」
「うん。」
ウサギを寝室に運び、他愛のない話をしながら遅めの夕飯を囲む。
一人だけ先に夕食を済ませることもできるのに、ジェジュンが来るまで待っている。
まるで新婚夫婦のようで、ニヤついてしまう顔を必死に隠して幸せをかみしめる。
穏やかな笑みをたたえて言葉を紡ぐの姿を、慈しむような目で見つめるジェジュン。
動きに合わせて揺れる柔らかな髪、滑らかな曲線を描く細い指先、見れば見るほどのめり込んでしまう。
いつからこんなに意識しだしたのか。
幼馴染から恋愛対象に切り替わる境界線がどこかすら、今はもうわからない。
「。」
「なに?」
食器を洗うのそばで、呟くように名前を呼ぶ。
邪魔にならないギリギリのところまで近寄って、ゆっくりと上体を倒した。
ちょうど額がの肩に乗っかる。
突然のことには驚き、一瞬体を引く素振りを見せた。
「どうしたの、ジェジュン?」
「……帰りたくない。」
二、三秒の沈黙の後、水道のコックをひねる音が聞こえた。
流れっぱなしだった水が止まり、ジェジュンの右手にの手が触れる。
ぴくりと身じろいだジェジュンだが、の肩にもたれたまま彼女の言葉を待った。
鼓動がだんだん早くなる。
「泊まってく?」
何かに包まれたように柔らかな声が、脳内を侵食するように広がった。
喜びと驚きの衝撃が同時に押し寄せすぐに反応できないでいると、触れていた手が遠慮がちに包み込んできた。
小さな手のひらから、温かな体温が伝わってくる。
震える息を小さく吐いて、目を閉じて幸せの余韻に浸った。
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2016.12.28