…いつからそんな色塗るようになったの?」






私の指先に慎ましくのっている、漆黒の黒。




その色を目にしたユチョンが、ぽつりと呟くように私に問う。






まるで恋に落ちたマグネット







明日から数週間、ユチョンは仕事で海外に渡るという。





いつだってユチョンからの申告は突然で、そのたびに私はため息をついてきた。




長いこと会えなくなるというのはユチョンの仕事がらわかってはいる。



だけど出発ギリギリになって「数週間会えなくなる」なんて、ズルいと思う。




外国での仕事なんて、もっと前からわかってたはずでしょう?







「最近よ。似合う?」



「……んー…。」



「黒は女を美しく見せるって言うじゃない。」



「でもオレには、なんていうか…無理して大人びてるように見える。」



「…そう。」






前に一度、ユチョンに面と向かって聞いたことがある。




私にどうして欲しいのか。



私は、どうすればいいのか。




返ってきた答えは、きっと私の感情を逆撫でしないようにと思案した結果のものなんだろう。





待っていてくれるなら待っていて欲しい。



でも無理して傍にいてくれなくていい。




困ったような、寂しげな表情でそう言われた。





ユチョンは自分から「待っていてくれ」とは言わなかった。




それの意味するところを、私は未だに掴めていない。







「薄いピンクとか、淡色パステルカラーっていうの?そういうほうがには合ってると思うけど。」



「目立たないんだもの。」



「だからこそいいんだって。」



「そうかな。」






ユチョンはいつだって私と一定の距離を保って接してきた。



お互いのプライバシーのための距離とかそういうのとは、また別次元での距離が私たちの間には存在している。




それを縮めようと、どんなに私が奮闘しても、その分ユチョンは離れていく。





まるで磁石のような関係。



これでも私たちは”恋人”なのである。




私の理想像とは程遠くかけ離れた、恋人。






「今度買ってきてあげるよ。」



「じゃあルイヴィトンのマニキュアがいい。ブロンズの。」



「だから、オレが言ってるのは淡色のだって。ヴィトンのマニキュアって…、ホントどうした?」



「なにが?」



「その黒のマニキュアといい、ヴィトンといい…今までそんなの使おうともしてなかったのに。」



「急に高望みし始めたって?」



「いやー…んー……やっぱ、無理してるようにしか見えない。」






彼に他に女がいようがいまいが、私と付き合っているのが惰性であろうが、私たちは恋人なのだ。



今のところは。




S極とN極のように空間こそあれど、どちらかが動けばどちらかもそれについていく。



一定の距離を保ってだけれど。






「ユチョン。」



「ん?」



「手、繋ごう。」



「…いきなりなに、どうしたの。」



「ううん、ただなんとなく。繋ぎたくなったの。」



「いいよ。…相変わらずちっさい手。」



「可愛いでしょ?」



「うん。だからさ、やっぱ黒はやめたほうがいいよ。可愛さが半減する。」






共有する温もりは、きっと私とユチョンにしかわからないものだ。



そうであるといい。




お互いの心のベクトルが合っているうちは、ずっとそうであるといい。








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2011.5.2

そういえばうちのサイトには悲恋ものがほっとんどないなー。
と思った書き始めたんですが、あんまり悲恋にならなかった。
むしろ悲恋になりませんでした。なぜ。

心の扉を開ききらないゆちょんを想像するとなぜか切なくてきゅんとしてしまいます。
開いても30度くらいまでよ、なゆちょん、そんなゆちょんもありだと思う!

しっかいヴィトンのマニキュア、執筆中にネットのオークションページ見たら結構な金額するのね。
びっくりしたわ。