パーティーやってるからおいでよ、というジェジュンの誘いに、半ば二つ返事で乗ったことを今更ながら後悔した。





洒落た店をわざわざ貸しきってまで開かれているのは、日付が変われば誕生日を迎えるユチョンのためのパーティー。



それを知っていたら、たとえ仲のいいジェジュンからの誘いでも断っていたのに。






「あ、!こっち来いよ。」





金と引き換えに店員から酒をもらったその直後に、私はヤツと目が合ってしまった。




そこでユチョンがこのパーティーの主役だと知るのだから、ついてない。



酒を買う前に気づけていれば、すぐにでも店から出て行けたのに。





私は軽く舌打ちをして、両隣に女をはべらせて偉そうにソファに座っているユチョンを思いっきり睨みつけてやった。









最憎なるお前へ








「何ボーっと突っ立ってんの、ホラ、早く来いって!」





薄暗い照明でもはっきりとわかる、ユチョンの表情。



摂取した酒の影響か、それともこの場の雰囲気の影響か、ヤツの顔には酔いが表れていた。




そしてそれはユチョンだけではなく、ヤツの隣に座っているやたらと肌を露出させた女たちもだった。




彼女たちはこれでもかというくらい自分の体をユチョンに擦り付けている。



貼り付けただけのような薄ら笑みは、「早くどっかに消えてよ。アタシたちの邪魔しないで。」と無言で私を制圧しようとしている。




要するに私は彼女たちの嫉妬の的だ。恐ろしい。






「おい、シカトすんなよー、どこ行くんだ?」





あの手の女は接するのが非常に面倒くさいことを知っている。



自分が優位に立っていると実感することで優越感を覚えるタイプだ。そして、女としてのプライドの高さが異常。




そんなのに付き合う気すら起きず、ユチョンの手招きを無視して店内にいるであろうジェジュンを探すことにした。





探し出して、文句の一つでも言ってやるのだ。




どうしてユチョンの誕生日パーティーなんかに私を呼んだのか、と。





ジェジュンは、私のユチョン嫌いをいやというほど知っているのに。



それをわかっていながら、なんで私をここに呼びつけたりしたのか、甚だ疑問だ。



なんのパーティーなのか聞かなかった私も悪い。



が、今は自分を棚に上げさせてもらおう。さっさとジェジュンをとっ捕まえて聞き出してやる。








「おい、コノヤロー。」



「――!」






いきなり腕を後ろに引かれて、持っていたグラスから酒が零れた。



それは私の手とジーンズと靴を汚し、床に音を立てて落ちた。




その光景をしっかりと見ていたはずなのに、加害者であるユチョンは謝罪のことばの一つも口にしない。



作ったような不機嫌顔で私を見下ろしていた。




コノヤローはこっちの台詞だ、コノヤロー。






「呼んでんだから返事くらいしろよ。カワイくねーな。」



「だったらアンタも返事くらいしてあげたら?盛りのついた猫みたいにアンタのこと呼んでるじゃない、あの子たち。」






ユチョンがいなくなったソファから、気持ち悪くなるほど甘ったるい声を使ってユチョンを呼ぶ女たち。




私が現れたことで、ユチョンに美味しく頂かれるはずだった彼女たちの今夜がなくなってしまったのだろう。



彼女たちの瞳からは軽い殺意までもが飛んできているような気がする。




私からしてみたらそれはとんでもない迷惑極まりない。勘違いにも程がある。




私はこのユチョンという男が大嫌いなのだ。



気分屋でめんどくさくて、女は下半身のお友達、またはおもちゃ程度にしか思ってないこの最悪な男が。







「もうアイツらは用済みなの。お前が来たから。」



「私この酒飲んだら帰るの。色目使うんならあの子たちに使ってあげなさいよ。」



「いつも言ってるだろ、お前以外に興味ない。」






再びグッと腕を引かれて無理矢理に歩かされる。



その度にグラスの中身がどんどんと零れていって、私の手や足を濡らしていく。




どんなに抵抗してもユチョンの手の力は弱まらず、私の腕を解放してはくれなかった。





そして乱暴な音を立てて行き着いた一室――ここは男子トイレの個室だ。




ありえない。







「ちょっと、何考えてんの?気持ち悪いんだけど、くっつかないでよ。」



「手、ビチョビチョだな。」



「あんたのせいでしょ。こんなとこに連れ込んでどうする気?おっぱじめたら本気で殴るから。」



「つくづくカワイくねー。」






くつくつと、ユチョンは心底楽しそうに笑っていた。



苛立ちで顔をゆがめる私とは対照的なその顔に、腹が立つ。





大体、コイツも知ってるはずだ。私に嫌われていることを。




知っていながら気持ち悪いくらい傍に近寄ってくる。



私は絶対コイツなんかになびくことはないのに、だ。






「日付変わった。何かオレに言うことは?」



「大っ嫌い、今すぐ目の前から消えて。」



「はは、お前ならそう言うと思った。」





ヘラヘラと笑うユチョンに、どんどんと苛立ちが募る。



何だってこんな狭いところに、コイツと2人きりでこんなに密着しなきゃいけないのか。




体全体で嫌悪感を訴えているのに、ユチョンは気づいていながら尚も楽しそうにしている。




ユチョンは私の持っていたグラスをゆっくりと取り上げて、私に見せ付けるように口に含んだ。



そしてどさくさに紛れて、裾の中から忍ばせた片手で私の背をいやらしい手つきで触る。




鳥肌が立った。






「触んな、死ねっ…――!!」






私がユチョンの頬を引っぱたくよりも早く、ユチョンは噛み付くようにして私の唇に貪りついてきた。




口をこじ開けられて、ユチョンが含んでいた酒を無理矢理流し込まれる。



それに乗じて舌が入り込んでくる。




体全身が硬直して、鳥肌が立って背筋がゾッとした。




気持ち悪い、なんなのコイツ。





引っぱたこうにも、いつの間にか手首を掴まれていて腕を動かせない。



抵抗しようにも、ユチョンと壁に挟まれた私には身動きの余地がほとんどない。




さらには無理矢理流し込まれた酒のせいでむせているのに、逃がさないというようにユチョンは離れない。




好き勝手に人の口の中を荒らしまわっている。ただのケダモノのよう。





こうなったら口に噛み付いてやるしかない、そう決心すると、ユチョンはそれを察したかのようにようやく私を解放した。







「…っ、ゲホッ、ゴホッ。」



「どうせ何も持ってきてないだろうし、これがお前からのプレゼントって事でいいよ。」






いけしゃあしゃあと言い放つユチョンの頬を、思いっきり引っぱたいてやった。



乾いた音が響き渡る。




全力を込めたはずなのに、ユチョンは痛がることもせず、むしろ口角を上げやがった。




本当に腹が立つし、気持ち悪い。






「誕生日だからって、何しても許されると思ってんじゃないわよ…調子にのらないで!」



「…それはこっちのセリフなんだけどなぁ、。」



「……もういい加減離して、私帰る。どいて。邪魔。」



「やだね。」



「やめてってば!」






壁に押しつぶされるんじゃないかと思うほど強い力で、全身を押し付けられてしまった。




触られたところから鳥肌が立って悪寒が走る。



私は本当にコイツが生理的に無理なんだと、体全身が叫んでいた。




気が触れそうだ。






ユチョンの顔が首筋に埋まって、いよいよ体の震えが押さえられなくなってきた。




必死の抵抗もむなしく、ユチョンは余裕を見せるつけるように鼻で笑う。







「今日くらい、オレのものになれよ。誕生日なんだからさ。」






意味がわからない。



何でもかんでも、誕生日を理由にするな。





ニヤニヤと笑うユチョンと視線がぶつかる。



その瞳には、ギラギラと滾る欲情が浮かんでいた。





私はありったけの感情を込めて、誕生日を迎えたコイツに言い放ってやった。







「死ね。」





その言葉を聞いたユチョンの顔は、気味が悪いほどに笑顔で満ちていた。








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2011.6.4

誕生日を迎えた人に送る言葉ではありません、本当にごめんなさい。
祝う気がまったく感じられませんね、すみません。m(_ _)m

少しテイストを変えて書いてみようと思ったら、お祝いには似つかわしくない、むしろ正反対のものができあがりました。
本当にごめんゆちょん。
こんなのをバースデー小説だと言おうとは思いません。
誕生日ネタを使った作品、です…ちゃんと別にお祝いの作品書きます。

…言葉遣いの悪いヒロインを書いてみたかったので、満足です…!