「へぇー、ユチョンくんって今日が誕生日なんだ。おめでとー。」
「ありがとー。でもこんな日に限って彼女は会ってくれないんだから、ツイてないよホントに。」
「えー、かわいそう…。」
「でしょー。オレというものがありながら、ヒドイよねー。」
あと数時間もすれば5日に変わるという夕方の時刻。
ジェジュンヒョンに頼まれた買い物の帰り道で、高校時代のクラスメートだったちゃんと遭遇した。
ちょっとした昔話が膨らんで、いつの間にか公園のベンチに腰掛けて他愛もない会話をするオレたち。
さっきからジーンズに突っ込んであるケータイが何度が震えてる。
だけどジェジュンヒョンからの連絡だとわかってるし、オレはあえて無視を決め込んでいた。
「(オレ、実はちゃんのこと好きだったんだよ…なんて、言えるわけないよなー…。)」
数年越しの想い
ちゃんは数年前とあんまり変わってなくて、でもどこか大人びた風貌でオレに笑いかけてくれてる。
数年顔を合わせなかっただけなのに、こうして近くで見ると目に入る全てが新鮮で、オレの心はいちいちときめいていた。
「彼女さん、仕事?」
「あー…うん、そんなもんじゃないかな。」
「そっかー…。今日が日曜日だったら良かったのにね。」
「…うん。」
ちゃんの優しさは前からちっとも変わってない。
変に同情くさくされるのは嫌いだけど、ちゃんのはそういうのとはちょっと違う。
なんていうか、オーバーじゃない。
明らかに同情されてるってわからないから、不思議だ。
「やっぱり仕事してると、制限かかること多くて大変だよねー。会いたくても会いに行けなかったりとか。」
ちゃんは、会ったこともないオレの彼女に哀れみの意を抱いているらしかった。
本当は、アイツは仕事なんかじゃなくて他の男のところに行ってる、ただそれだけのことなんだけど。
アイツの浮気はここ最近発覚したことだったけど、オレ自身そんなに傷つかなかった。
ともすればもうお互いの気持ちなんてほとんどゼロなわけで、別に今日会えないから寂しいなんて、正直微塵も思っていない。
もし今日アイツと会っていたら、今ここでこうしてちゃんに遭遇することがありえなくなるわけだから、ある意味感謝してもいいのかもしれない。
「ちゃんは? 今彼氏いるの?」
「それがねー、過去形になっちゃうんだよね。」
「いた、ってこと?」
「そう。別れたのはつい最近なんだけど。彼が海外行っちゃって、いつ帰って来れるかわからないからって。」
「…待っててくれって言われなかったの?」
「お互いに自由利かなくなるから、そういうのはやめようって。彼なりの気遣いだよ。円満破局ってやつかな。」
「そうなんだ。」
ふと、ちゃんの彼氏だった男が羨ましくなった。
最後までちゃんに思われていた人間は、オレからすれば幸せ者だ。
きっとソイツもそれをわかっているから、あえてちゃんから距離を置いたんだろう。
お互いがお互いのために身を引いた、美しい終わり方。
「…ちゃん、明日なんか予定ある?」
「ないけど…どうして?」
「一緒に、どっか行かない?」
「えーっ、せっかくの日曜日だよ、彼女さんと会わなくていいの?」
「きっと明日も会えないし。それに、せっかく再会したから、もっとたくさんちゃんと話したいなって。ダメ?」
「ユチョンくんがいいなら、私は構わないけど…。」
「マジ?やった、ありがと! じゃあさ、また連絡するからアドレス教えてよ。」
なんかオレ、水を得た魚みたいだ。
アイツの前でさえこんなにテンション上がったことなんてないのに。
なんか、笑える。
「送ってくよ、もう暗くなってきたし。」
「ありがとう。…でもユチョンくん、荷物重くない?」
「へーきへーき。」
この年になっても尚、青春チックな経験ができるなんて思わなかった。
甘酸っぱい感覚、すっごい久しぶりだ。
ちゃんの笑顔見るだけでドキドキする。
女の子の隣って、こんなに緊張するポジションだったっけ?
「行こっか、ちゃん。」
「うん。」
いよいよ地平線の向こうへ太陽が姿を隠していく。
わずかな橙が、やけに眩しく瞳に写った。
ちゃんの横顔が、眩しい。
今日が終わるまであとわずか、そんな瞬間に幸せを噛み締められて、ホントに嬉しい。
きっとこの先、こんなに嬉しくなれることなんてそう多くないだろう。
オレは一瞬一瞬を全身に焼き付けるように、ちゃんと帰路を歩いた。
「ずっと前から、好きです。」
空いた片手に触れた熱が、強烈に伝わった。
なんて、幸せな。
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2011.6.4
改めまして、ハッピーバースデーゆちょん!
実に2年ぶりのバースデー小説になりました。2年て(笑)
些細な幸せの積み重ねでゆちょんが幸せを実感できてるといいなと思います。
彼に涙は似合うけど、やっぱりそれ以上に似合うのは笑顔だと思うので(笑)
大切な人と笑えていますように!おめでとう!