愛しておくれ。
ほかには何も望まない。
お前の笑顔で私は生きる。
欲深な獣
「、どうしたの?また怖い夢でも見たの?」
「うん……ごめん、しばらくこのままでいさせて…」
「いいよ。」
いくら歳をとっても恐怖を抱かせる夢というものは見てしまうもので、そこに潜む怖さというのは馬鹿にできない。
先ほどまですやすやと寝息を立てて寝ていたも、自分で見た夢の得体の知れない恐怖に目を覚まし、隣で寝ていたユチョンにすがり付いていた。
具体的なないような何一つ思い出せない。
ただ漠然とした何かが自身の目の前にあって、威圧感を放っているような夢だった。
襲ってくるわけでもないし、追いかけてくるわけでもない。
最近はこの類の夢をよく見ていた。
目を覚ませば具体的な内容は思い出せないが、長い時間その恐怖が纏わり着いている。
身体はじとりと汗をかいていて居心地が悪いし、さっきまで寝ていたというのに呼吸が荒いこともしばしばある。
そんなを、ユチョンは必ず抱きしめあやす様にして心を落ち着かせてくれる。
どんなに起こさないようにと思っていても、が夢から覚めると連鎖反応を起こすようにユチョンも瞼を開けるのだ。
なぜだろうと、はいつも不思議に思う。
人の眠りを妨げるようなことは極力避けているつもりなのだが、ユチョンだけはいつも起きてしまう。
眠りが浅いのだろうかと一度聞いたことがあったが、ユチョン本人は毎日快眠だと否定していた。
「ユチョン、ごめんね。」
「だから謝らなくていいって。いつも言ってるのに。」
「…うん。」
ぽんぽんと一定のリズムで肩を叩いていた手が止まった。
が顔を上げてユチョンを見ると、ユチョンは「眠れそう?」と額にキスを落とす。
「…うん、たぶん…」
「おいおい、顔が曇ってるぞー。」
「…また同じ夢見そうで、怖いんだもん。」
「……なあ。」
「なに?」
「そういう夢見始めたのって、いつごろから?」
「結構最近だよ。1週間くらい前からかな…どうして?」
「…いや、なんでもない。さ、早く寝る準備して。無理にでも寝とかないと!」
一瞬シリアスなムードになりかけたのを、ユチョンがいつもの声色で払拭した。
は、微かに見せたユチョンの表情の変化に違和感を抱きつつも、言われるままに再び枕に頭を預ける。
隣にいるユチョンが手を握ってくれているから、大丈夫だと自分に言い聞かせて目を閉じた。
「(怖い夢、か。)」
隣で眠るから再び寝息が聞こえてきた頃。
ユチョンは握っていた手を離し、頭の後ろで手を組んで天井の一転をじっと見つめる。
1週間ほど前からだとは言っていた。
悪夢を見始めたのは、最近のことだと。
その言葉を聞いたとき、ユチョンは瞬時に「やっぱりそうか。」と納得した。
確信があるわけでもなく根拠のないものだったが。
「(、ごめんな。変な怖い夢見るの、もしかしたらオレのせいかもしれない。)」
寝返りを打つようにして心地よさそうに眠るを毛布ごと抱きしめる。
くぐもった様な声が聞こえるが、それも一瞬のことですぐに小さな寝息が聞こえてきた。
耳元で彼女の名前を囁いても返事はない。
今度はきっと、穏やかで平和な夢を見ているんだろう。
「ごめん。オレ、貪欲で嫉妬深いから。」
安らかに眠る顔を見つめて、頬に一度キスを落とす。
を見つめるユチョンの瞳には明らかにいつもとは違う光が宿り、それは曇りなく彼が下した決断を表しているようだった。
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2013.1.3