低いその声が、私の名前を呼ぶ度に、
「。」
胸を鷲掴みにされる感覚。
目を合わせると自分の鼓動がはっきりと聞こえるくらいに大きくなって。
「オレのわがまま聞いてくれない?」
この人を好きになっておかしくなっちゃったのかなって、何度も考えた。
Brandish
明日一日、仕事を休んでユチョンの仕事に朝から晩まで同行しろ。
これがユチョンの言うわがままだった。
何かあったの?って聞いても答えてくれなくて、その代わりに「朝また迎えに来るから。」とだけ言い残してユチョンは帰っていった。
わがまま聞いてくれる?って聞いといて、有無を言わせずじゃない。
そう思うけど、ユチョンに惚れてる手前結局許してしまう自分がいて、甘いなあと苦笑いをするしかない。
当日、6時にユチョンに起こされて、連れられるがままお洒落なビルの中へ。
会議室みたいなところで衣装に着替えたかと思えば、撮影スタジオに颯爽と歩いていって何度もポージングしていくユチョン。
焚かれるフラッシュの眩しさに目が慣れなくて、私はスタジオの隅っこからずっと険しい顔で眺めていた。
昼食を移動車の中で済ませて今度は別のスタジオへ。
近々予定されているライブの練習とダンストレーニングだとか言ってた。
私はまた隅っこに座らせてもらって傍観。
夕方から夜はずっとレコーディング作業で、歌ってるユチョンは改めてかっこいいなぁと見とれていた。
私はただ現場の隅々にいるだけで、全くといっていいほど何もしてない。
邪魔するわけにいかないから下手に動けないし、ユチョンのほうから何を言ってくるわけでもなく。
一日丸まる休んでついてきたのに、これで意味はあるのか……
「はーい、一度休憩にしまーす。ユチョンさーん、あともう少しがんばりましょうねー。」
ディレクターの声がブースにも伝わって、あくびをしながらユチョンが出てきた。
当然のように私の横に座り水を飲む。
喉仏が上下するのを見ながら、「私いる意味あるの?」と聞くと目線だけをよこされた。
ペットボトルをテーブルに置き、私の腕を掴んで無言のままスタジオを出る。
どこへ行くのかと思えばそこは喫煙所で、火をつけたタバコをふかしながらユチョンは私を見つめた。
色っぽいその表情に鼓動が早くなる。
「ただ単にオレがと一緒にいたかったから連れてきただけだけど。不満?」
「そうじゃないけど、ただいるだけだとスタッフの人たちの邪魔にならないかなって思って。」
「そんなの気にしなくていい。スタッフがどうのよりも、オレがと一緒にいたいっていう気持ちのほうが大切でしょ?」
「……ユチョン、わがまま言うようになったね。」
「昔からだけど。」
深く吸ったタバコを吐き出してユチョンが一歩近づいてきた。
ユチョンの吸ってるタバコの匂いが色濃く残っている。
ちょっときつい、でもユチョンの匂い。
「わがままついでにもう一つ、キスさせて。」
「…苦くなるのやだ。」
「だから、わがままって言ってるじゃん。」
「ちょ、ここ人通るよ!」
「それが?」
はにかんで悪戯に笑うユチョンが近づく。
もうここまできたら、私に抗う術はない。
悔しいけど。
重なった唇からはやっぱりユチョンのタバコの味がして、頭の中がくらくらするほど支配された。
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2014.9.10