深夜に携帯電話が鳴ると本当にビックリする。
恐る恐る画面を見ると、表示されていたのは「パク・ユチョン」の名前。
こんな時間に、と思いつつも、お人よしなあたしは眠気を我慢して通話のアイコンに触れる。
『、久しぶりー。』
騒がしい居酒屋からかけているとばかり思っていて拍子抜け。
電話の向こうはすごく静かで、ユチョンの声もとても落ち着いていた。
会いたかっただけ
「こんばんは。どうしたの?こんな時間に。」
改めて時計を見ると、長針が1時過ぎを指している。
普通はこんな時間にはかけてこない。
しかも、何であたしなんかにかけてきたんだろう。
記憶の限りでは、共通の友人が主催した飲み会で顔を合わせた程度の関わりなんだけど。
連絡先の交換だって、その場のノリでしたようなものだったし。
別段盛り上がるような会話をした覚えもない。
要するに、あたしとユチョンは親しい関係ではない。と断言できるくらいのお友達というわけで。
そんな人間相手にこんな時間に電話なんてかけないと思うんだけど。
『ー、オレね。今日誕生日なんだ。』
「そうなんだ、おめでとう。」
『でさあ、今日……会えない?』
急に何を言い出すかと思えば。
何の脈略もない切り出し方をされて、思わず返答に詰まってしまった。
「あー、あたし、今日から海外出張なんだよ。」
『どこに?』
「オランダ。」
『…遠っ!』
そのためにも一秒でも早く眠りにつきたいんだけど。
ユチョンの沈黙が続くから、電話を切る断りを入れようとしたら、
『じゃあ、今から会えない?』
と言われてしまった。
「はい?」
『今から。ムリなら……オレが空港まで会いに行くよ。何時?何便?』
「いやいやいや、なんで?」
『会いたいから。』
「んー、ごめん。意味がわかんない。」
彼女宛の電話を間違えてるんじゃないかと思って聞いても、否定されてしまった。
ユチョンがあたしに会いたくなるという理由も心情もよくわからないし、実際本当に出張があるので会えるわけがない。
彼女と会うよう言うと、彼女なんていないと答えが返ってきた。
それが本当か嘘かはともかく、今とてもめんどくさい状況下に立たされていることは確かだ。
そもそも自分が会いたいからという理由でこんな時間に電話してくるなんて、かなり図々しい。
おかげでこっちは睡眠時間がどんどん減っていく。
「誕生日なのにぼっちなのが寂しくて電話してきたの?」
『違うよ、に会いたくなったから。』
「(そこがよくわかんないんだよな。)あたしと会ってどうするの?」
『別にどうもしない、ただ顔見れればいっかなーって。とかなんとか言ってるうちに、の家の前についちゃった。』
言葉尻と同時にインターホンが鳴る。
こんな時間になることなんてまずないから、電話でユチョンがそう言ってても反射的に体がびくついた。
カメラで確かめると本当にユチョンが。
「わ、ー。まさか開けてくれるとは思わなかった。」
「……本当に何がしたいわけ?」
扉を開けて呆れ顔全開で迎えても、ユチョンは電話の声と変わらず笑顔を浮かべていた。
ごめんごめん、と心にもない謝罪だけをしてずかずかと上り込んでくる。
ちょっと、と止めようと思ったけど、言っても聞かないだろうなと諦めて改めて鍵を閉めた。
「のすっぴんって、案外キレイなんだな。」
「失礼ね。っていうか、本当に何しに来たのよ。出張だって言ってるでしょ、あたしの寝る時間奪わないで――」
「オレさ、今日誕生日だから。どうしてもに会いたかったんだ。」
「……だから、なんで?」
「オマエと一緒にいるとすっごい落ち着くから。その安心感があの時から忘れらんなくて。」
あの時、というと、飲み会のことを言ってるんだろうか。
穏やかな笑顔のまま、ユチョンは自分の家のようにくつろいでいる。
親しくもない男を家に上げて、しかも二人きりというよく考えればあんまりよくない状況下なのに。
私はユチョンを追い出すわけでもなく、ただただ話を聞いている。
「に会えてよかった。最高のプレゼントになったよ。」
「……まさかとは思うけど、」
「うん?」
「私の、こと……」
「あー、はは。うーん……そうだなあ、が出張から帰ってきたらその質問に答えてあげるよ。」
そう言うと、ここで寝かして、と座っているソファに横になって目を閉じたユチョン。
すぐに寝息が聞こえてきて、ユチョンに振り回されてばかりだと改めて私は脱力してしまう。
「なんなの、もう……」
そうは言ってもあどけないその寝顔に毒気が抜かれた気がして、苦笑が漏れた。
「おめでとう、ユチョン。」
起きたらもう一度言ってあげられるだろうか。
寝室から持ってきた毛布をユチョンにかけてあげると、「ありがと。」と返事が返ってきた。
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2015.7.8
1か月過ぎちゃいましたね!またやらかした!
ゆちょんおめでとうっていう気持ちはあるんだよー…