そんな感じで今年もよろしく







コンビニで適当に見繕った缶ビールを片手に、高層マンションのインターホンを鳴らす。


カメラに向かって笑顔にピースを加えると、家主も無言でエントランスの扉を開けてくれた。


エレベーターに乗り込み行先階のボタンを押す。


上昇するにつれて眼下に広がる夜景を、ふと懐かしいなと思った。






「ハッピーニューイヤー今年もよろしくねー」

「おー」





遅すぎる新年のご挨拶。



手土産が缶ビール三本なんて、だいぶシケてる自覚はある。


だけどまあ相手は長年連れ添った恋人だし、いろいろ飾り立てるのは別の機会にするとして今回は目をつぶっていただきたい。




お邪魔しまーすという間の抜けた私の声を待って、玄関の扉が閉められた。



このクソ寒い時期にもかかわらずユチョンは裸足で家の中をうろうろしている。


そのくせ「さみー」と震えながらジャージの裾に足の裏を擦り付けるのだ。


毎年恒例の光景にもはや突っ込む気もなくなった。




「明日雪予報出てるね。今晩ドカ雪降って明日の交通機関止めてくんないかなー。会社休みたい」

「さっきのニュースで雨予報に変わってたけど」

「はーーー無情……」




リビングに通され、上着を脱いでコタツに潜り込む。



ユチョンが持ってきた二人分のグラスに、外気でキンキンに冷えたビールを注いで乾杯。


仕事終わりの胃にダイレクトに響く。


真冬のキン冷えビール最高。





「オレたち、会うの何か月ぶりだっけ?」





コタツの中でぶつかるユチョンの足の冷たさに背筋が伸びる。



ストッキング越しに熱を奪われていく気がして辛抱ならず、脛あたりを足蹴にして応酬する。





「んー……半年くらい?もっと?覚えてないや」

「久々に会えて嬉しい〜、とかないの? ユチョン会いたかった〜とか」

「言ってほしい?」

「まあ、うん」





反撃、と言わんばかりに私のひざ裏あたりにユチョンの足が当てられる。



つめて、と反射的に声が出たのを聞きもらさなかったらしく、したり顔でこっちを見つめてきた。


セクハラおやじみたいね、という突っ込みは胸の内にとどめておく。






「ユチョンに会えなくてさみしかった〜〜今日はうんと甘やかしてよねっ」

「……ぶりぶりしすぎ」

「照れんなって」






あっという間にグラスの中は空になる。


二本目のビールに手を伸ばすと、その指先がさっと握られた。



ユチョンは相変わらずしたり顔だ。






「なに?」

「べつに、手握りたくなっただけ」

「へへ、なにそれ」

「いつぶりに握ったかな、の手」





こんなにちっさかったっけ、とか、なんか肌の色白くね?とか、私の手をまじまじと見つめてはぶつぶつ独りごちている。



好きにさせていると手の甲を撫で始め、満足げな顔をし始めたので私の頬も緩んでしまった。






「早くビール飲みたいんだけど〜」





そんな文句を垂れつつ、目の前のユチョンの子供のような満足顔を見てると、もうちょっと待ってあげようなんて思ってしまうチョロイ私なのであった。







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2019.01.29

だいぶ久しぶりに書きました。
アッサリ系ヒロインにしすぎた感も否めませんが、リハビリがてらサクサクと書きたかったので見逃してください。