なんで殴られなきゃいけないんだ。
やっと仕事が終わって、せっかく会いに来たってのに。
久しぶりの再会なんだからさ、「ユチョン会いたかったー!」とか抱きついてくることを期待してたんだけど。
なんでオレ、殴られたの?
(軽くだけどさ、痛いし、ショックだ。)
「こっち。」
玄関に立ち尽くすオレの腕を半ば強引に引っ張って、どこに連れてくのかと思いきや寝室へ。
そ、そんないきなり!?
どういうツンデレだよ――
「起こしたりしないから、寝て。」
「……は?」
毛布をめくって、彼女はリビングへ。
ちょっと。なに? え、どういうこと?
「え、寝てって、オレが?」
「そう、早く。」
「なんで!?せっかく会えたのに――」
捲し立てるように言うつもりが、振り返った彼女に威圧されて言葉がつまった。
「無理してほしくないの!!」
「……無理なんか――!」
「ユチョン鏡見た? 隈、すごいのわかってる!?」
「……く、ま?」
「会いに来てくれるのは嬉しいよ。でもとにかく、今はたくさん寝て!」
睡眠はホントに大事なんだからね!
そう言って、またオレを寝室に連れ戻す。
かなり真剣な顔で、一緒に寝ようなんて言ったら怒られそうだ。
「……じゃあ3時間後に起こして。」
「時間気にしないで、とにかくゆっくり寝てよ。」
「話したいことが一杯あるんだって。3時間後、絶対。」
「………」
「オヤスミ。」
ベッドからは、オレの大好きな匂い。
これならすぐに眠りに落ちそうだ…
もうほとんど寝かけているとき、フワリと頭を撫でられた気がした。
---------------
10.5.13
---------------------------------------------
「あったま痛い……!」
「大丈夫?」
「だめ、むり、死んじゃう。」
ユチョン、死ぬ前にキスして…!
なんてことを言うんだろうか。
うー、とか、あ〜!とか言いながら、どさくさに紛れてオレに抱きついてくる。
「ユチョ〜〜ン…早く、ちゅー…。……据え膳食わぬはなんたらよ…」
「………自分がなに言ってるかわかってんの?」
襲ってくれって言ってるようなもんだよ。
それ、わかってる?
「……あたしの頼みが聞けないってうの…」
「聞いてもいいけど、お前はホントにいいの?」
頭痛がヒドくなるかも。
熱出すかもよ?
「そしたらユチョン看病してよ……ユチョンの責任で。」
「…誘い方ヘタクソ。」
「……うっさいなぁ…」
そんなカワイイ彼女を抱きしめると、もうすでに熱で火照っていた。
---------------
10.6.26
---------------------------------------------
久々に、日付が変わる前に寝れる……
私は幸せを噛み締めてベッドにもぐりこんだ。
暖かい布団に包まれて、
私はだんだんと心地よい眠りに落ちていく――
「人間カイロはっけーん。」
突如、快眠への入り口は、いとも簡単にユチョンの手によって閉じられてしまった。
もぞもぞ、と私のベッドにもぐりこんでくるユチョン。
リビングでみんなとミーティングしてたんじゃ…と口を開きかけたら、
シャンプーのいい香りが私の鼻を掠めた。
どうやらミーティングはとっくに終わっていたらしい。
「…っ、つめたっ!」
ベッドにもぐりこんで早々、ユチョンは私を抱きしめる。
お風呂に入ったはずなのに、ユチョンの体は冷たかった。
「体温が高いからオレが冷たく感じるんじゃん?」
「…明らかに、ユチョンの体が冷えてるんだよ…」
「いやいや、お前が赤ちゃん体質だからっしょ。」
ぽちゃぽちゃのほっぺにぽちゃぽちゃの体、
ホンットー、赤ちゃん体質。
失礼な言葉を言いながら、ユチョンは私を抱きすくめる。
あったけー! と、ニコニコしながら腕の力を強めて。
「……変なコトしないでよ。」
「しないしない、したこともない。」
「うそつけ、前科はたっぷりよ。」
「まーまー。あ〜……暖かくって幸せ〜…」
今日はおとなしく寝ようぜ、
なんて 本当に幸せそうな声でユチョンが言うから、
「…おやすみ」
私もそれにつられてユチョンの体に腕を回した。
---------------
10.12.13
寝る前に書いたSS。
---------------------------------------------
「「「お疲れ様でしたー!」」」
テレビ収録が終わりを迎える。
分刻みのスケジュールで動くために、私たちスタッフは今や人気絶頂の5人を急かしに急かして局を後にする。
「あっ、また今度ご飯でも行きましょーねー!」
「真面目に走らないとケツ引っぱたくわよ!」
明るい笑顔を浮かべてユチョンが手を振ったのは、この局のスタッフだった。
顔を赤らめて俯いちゃって、何とも可愛らしい女性だこと。
その姿を見たユチョンの頬は緩みまくっていて、私の暴言なんてまるで耳に入れていなかった。
「カワいかったよね〜ユノヒョン、あのアシスタントの子!」
「あ?ああ。」
「またこの局での収録ってあるかな?」
まるで恋バナに花を咲かせる女子高生のようなノリでルンルンなユチョン。
さっさと移動用のバンに乗り込まないもんだから、私は本当にケツを引っぱたいてやった。
それでも、ヤツはケツを摩りながらでれでれ顔で上の空だ。
なんだこいつ、ホントにおめでたいな。
いっそ、ぶっ飛ばしてやろうか。
「……ヌナ、どうしたのそんな怖い顔して…」
ちらりと横目で私を伺うジェジュン。
なんでもない、とドスの聞いた声で答えたのがいけなかったのだろう、そそくさとバンに乗り込んでくれた。
5人全員が乗り込んだのを確認してから、やや力を込めてバンのドアを閉める。
閉めてから勢い任せにため息をついて、腕時計に目をやった。
次の現場までギリギリ間に合う時間で出発できそうだ。
バンの中に目を向けると、5人が楽しそうに談話していた。
私がどんなに犠牲を払って全力で仕事をしても、やつは絶対に私に振り向かない。
私なんかより、ほわほわしたさっきのアシスタントの女の子のほうに目がいくんだ。
明らかに言われたことしかやらないような、いわゆるマニュアル通りの子に惚れている。
あんな使えなさそうな子のどこがいいんだろう。
自惚れちゃいないけど、私はそれなりに仕事のできる女だと自負している。
この世界に入って数年だけど、たくさん上司に絞られてするべきことも身についていると思う。
だからあのアシスタントのほわほわっぷりには呆れてしまった。
あんなんでよくテレビ局なんかに勤めていられるな、と思ったことは何十回とある。
男って生き物はああいうほわほわした女が好きなんだろうか。
そこまで思案して、ふと答えが見出せた。
ユチョンはあの子のことを”そういう”――いわゆる仕事目線で見てない。
恋心の対象として見ているんだ。
だから、仕事で使えなかろうが言われたことしかできなかろうが、関係ない。
むしろそういうところがヤツに「カワイイな〜」と思わせるのだろう。
私とユチョンとではあの子の見方が違うんだ。
「先輩ー!もう出発しないとやばいっすよー!!」
「……うん、車出して。」
バカみたいだな。
ホントに、バカみたいだ。
腑抜けた顔のままバンの助手席に乗り込むと、うんざりするほど楽しそうな5人の声が脳に入り込んできた。
---------------
2011.3.10
---------------------------------------------
「ん〜…」
「どうしたの?体調悪いの?」
頭をうなだれて低く唸るユチョン。
その表情は何かをこらえるようなもので、煩わしそうに見えた。
「気圧の変化で、頭いたいんだ…」
「なるほどね。」
「……平気なの?」
「私そういうのわからない人だから。」
ごめんね、という意味を込めて眉を下げると、ユチョンは大きくため息をついて私の方に倒れてきた。
「えっ、なになに、」
「このツラさをわからないなんて罪だ。罰としてオレを介抱しろー。」
「えっ…」
肩口に顔をグリグリと押し付けられる。
ユチョンの香りが間近で漂って、心臓が少しだけキュッとなった。
---------------
2012.10.2