午前9時、起床。



開けた窓から入ってくる空気は蒸し暑く、湿気をはらんでいるもんだから非常に鬱陶しい。


首もとをはじめ、体がべとべとしている。



とりあえず起き上がって扇風機のスイッチを入れて、Tシャツを思い切って脱いだ。






午前11時、ブランチ。



起きてから約2時間は、タンクトップを着て片手にうちわを持って暑さに耐えていた。


だけどそれにも限界が来たので、窓を全部閉めて冷房を入れる。


設定温度は28度。



ある程度部屋の中が冷やされたところで、のそのそとキッチンに向かう。


冷蔵庫から缶ビール一本と一口サイズのチーズと、買った記憶のないゼロカロリーの寒天ゼリーを取り出す。


これが本日の私のブランチである。






午後12時半、来訪者その1に対応。



爽やかな笑顔で実家からの荷物を届けてくれた配達のお兄さんと軽く言葉を交わして、ソファでごろごろ。


ごろ寝しながらテレビを見つつ、時々送られてくるメールの返事を打つ。


忘れないうちにと、実家のお母さんにも荷物ありがとうと電話をした。





午後2時過ぎ、再び来訪者。



数分前に流れたCMで見た顔が、今まさに私の視界に映っている。




、お前、昼から飲んだくれてるのか?」


「一缶しか飲んでないもん。」




チャイムを鳴らすわけでもドアをノックするわけでもなく、当たり前のように家に入ってきたこの男は、開口一番そう言った。


ユノの視線の先には、テーブルに置かれたビールの空き缶とチーズの包み紙。と、ゼリーの空の容器。




「ちゃんと食わなきゃダメだぞ。」




呆れたような困ったような笑顔を浮かべて、ユノは私の頭をあやすように撫でた。







Hey, My sweet!








、今日は俺が夕飯作るからさ。ちゃんと食え。」




ソファを背もたれに、床に直座りしているユノ。


そんなユノに後ろから抱きしめられるようにして、同じく床に座る私。



ユノの声がすぐ近くで聞こえて、くすぐったくて笑ってしまう。




「あー、やっぱ柔らかいな。」


「それ失礼じゃない?これでも私、3キロ落ちたんだけど。」


「だからちゃんと食えって。…別に太ってるって意味で言ってないぞ。癒しなんだよ、の柔らかさはさ。」


「なにそれ。」




柔らかい、そればっかり連呼して、ぎゅーっと私を抱きしめてくる。


時々うなじに呼吸が触れて、くすぐったくて体がピクリと反応してしまう。



そんな私を、ユノは「かわいいな。」なんていいながら笑ってくれた。





「な、。あとで一緒に風呂入ろうか。」


「え、…や、いいよ。狭いし。」


「そんなこというなよ。背中、流して欲しいんだけどな。」


「…私、明日普通に出勤だから。」


「どういう意味で捉えてんの、深読みしすぎ。」


「だって絶対そういう事になだれ込むじゃん。っていうか、もうすでに…当たってる、んだけど…。」





その言葉を聞いたユノは、私を抱きしめる力を寄り一層強めた。


肩に顔を押し当てられて、ユノの呼吸がものすごく近く感じられる。





「ユノ、そういうこと考えるの止めよう。もっと別の、そうだ、楽しいこと考えよう。」


と一緒にいる限りそれは難しいなぁ…一緒にいなくても、無理だろうな。」


「……ユノ、夕飯の買い物行こう。」


「残念でした、もう食材は購入済です。」


「…こういうときだけ用意周到なんだもんな…むかつく。」


「空気の読める男だしね、俺。」


「どの口が言ってんの?」





強く抱きしめらるほど、ユノの体温が伝わってきて心地いい反面、焦ってしまう。



ユノは私をその気にさせるつもりだ。


むっつりめ。




私は極力、思考を違うことに馳せた。


ここで私がほだされちゃったら、自分で自分の身を滅ぼすことになりかねない。





、シャンプー変えたろ。いつもと匂いが違う。」


「っ、ゆ、ユノ!?」


「なんか……ムラムラする匂い。」


「はああぁ!?」




うなじにユノの鼻先が当たる感触がした。



このむっつりスケベさんは、こともあろうにそのままうなじに舌をあててきた。




ヤバイ、結構本気で、落としにきてる。


そういう雰囲気を作り上げてなだれ込もうとしてる!





「ユノ! 待って、やめて。私今日はやだ!」


「…傷つくな…。」


「そんな顔してもダメ、とにかく離れて!」


「…じゃあ、せめてキスくらい、させて。」


「え、ちょっ――!」





大きな手で顎を掴まれたかと思ったら、目前にユノの顔があって思わず目を瞑ってしまった。



そんなブサイクな顔をした私の唇に、ユノは自分の唇を当ててきた。


結構強引なその行為に、ワンテンポ遅れをとって私は反抗を試みる。



徐々に深くなっていくキスに、私は頭の片隅で「あ、これはヤバイな。」と直感的に感じた。





なにが「せめてキスぐらい」だ。


全然「せめて」じゃないじゃんか。






「…っ、はぁっ…ゆ、の…」


、もう一回聞くけど。あとで一緒に、風呂入ろうか。」


「…っ、この、むっつりスケベ…。」





惜しくも、私はユノに負けてしまった。


申し訳程度の反抗も役に立つわけがなく。



絶対確信犯のこの男に、私はなんだかんだいって惚れている。



それはもう、どうしようもないほどに。





「よし、じゃあ買い物行くか。」


「…は? 何買いに行くの?」


「夕飯の食材。」


「……騙したな。」






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2011.8.2

ゆのさんは結構むっつりなイメージです。
どさくさに紛れてセクハラしてたり、爽やかな笑顔を振りまきながら実はむっつり、な感じ。
ゆのにご飯作ってもらいたいなー。