2.悪気はなくとも
偽装・新婚生活、初めての朝。午前6時。
寝ぼけ眼で朝風呂を浴びて、昨日の一連のやり取りを思い返す。
目が覚めて、ここが慣れ親しんだ実家でなければ本当に籍を入れた人間と共に住んでいるんだという実感が徐々に湧いてきた。
それは本来であれば喜ばしく微笑ましく、とても幸せなことであるはずなんだけど。
私の場合はどちらかというとその逆で、ため息を吐きながら3ヶ月間は耐えなければいけないという、ややこしい状態に置かれている。
でももう考えたって後悔したってしかたがない。
籍を入れてしまったのは事実で、後戻りなんて出来ないのだから。
ちょっとの間だけ我慢すれば、全ては終わる。
そう思って乗り切らないと。どうしようもない。
「(…あ、もうこんな時間。支度しないと。)」
シャワーコックをひねってお湯を止め、簡単にタオルを巻いて扉を開ける。
外気温の少し覚めた風が体に当たって気持ちいい。
ようやく目が覚めてきた、と思ったそのとき、閉めていた洗面室の扉が勢いよく開かれた。
「……あ、」
「……。」
眠たそうなユノの目と視線がぶつかる。
お互いにきょとんとした顔をして、それからユノは面白いくらい目を見開いた。
かと思うと開かれた扉がすごい音を立てて閉まる。
扉の向こうからはユノの「ごめん!!」という大声が聞こえた。
その言葉でああ、がっつり見られたんだなと察する。
洗面室から出ると、ユノは心底気まずそうな顔をして、しかし私と一切目を合わせずに改めて謝ってきた。
ユノとしては今までどおりの生活リズムでの行動だったんだろう。
昨日の今日でいきなり変えられるものでもない。
いくら夫婦になりましたとはいえお互いの意思の元ではないのだから、一晩寝たら一緒に生活してるんだなんて意識なくなっちゃうよなあ。
と、私は推考した。
その上で。
「うん、もうその件のことはいいから。忘れてね。」
それしか言えなかった。
ユノもその言葉に黙って頷いて、私たちはそれぞれの支度に取り掛かる。
初日からなんだかついてないなあ、とため息をついてしまう。
これから朝お風呂に入るのはやめようかな。
ユノも同じ時間に洗面室を使うみたいだし。
ちらとユノに目を向けると、いつの間にか支度をする手が止まっていて目はある一点を見つめていた。
「忘れてね?」
「……はい。」
---------------
2014.8.12