3.引き攣り笑顔でご近所対応





その訪問者は突然やってきた。




「あら!あなたがユノくんの奥さんね、初めまして!私二つ隣に住んでるのよー、よろしくね!」




自治会の回覧板とやらを持ってきたおばさまは、私が出るなり満面の笑みを浮かべて手を握ってきた。



私にドアを閉めさせないような位置に立ち、話を中断させる隙も与えられずマシンガントークが続く。


ある程度歳のいったおばさまがパワフルなのは知ってたけど、ここまでくるとちょっと疲れる……




今日からユノが泊りがけの仕事で、私は今日一日休みで、やっと一人きりになれる時間ができたというのに。


こんなことにどんどん時間が奪われるのは本位ではない。





「新婚生活どーお?いろいろと大変でしょう。世間様やマスコミの目もつきまくりだしねえ、気苦労多いでしょう!」


「いや、まあ――」


「ユノくんも大変よねえ!あっちこっち行ったり来たりで。新婚なのに旦那が家にいないなんて寂しいわよねえ!」


「別にそれは――」


「彼、なかなかいい男だし、女も寄ってたかるでしょうね!心配よねえ〜、あなたちゃんと捕まえとかなきゃダメよ!」





大きなお世話です、と声を大にして言いたい。



ユノはこのおばさまと仲がいいんだろうか?


それともおばさまがミーハーなだけ……うん、こっちだろうな。




人ん家の新婚生活に首を突っ込んでくるなんて、この人もだいぶ図太い神経の持ち主だ。



明らかに私の顔は引きつっているのに、それを知ってか知らずかおしゃべりの勢いは衰えない。


たかが回覧板を持ってきただけで、なんでこんな長時間おしゃべりに付き合わなければいけないのか。






「彼、忙しいと思うけど新婚なんだからちゃんと二人の時間を持たなきゃダメよー。」


「あの、この回覧板…次はどちら様に回せばいいんですかね。」


「あら、ここに書いてあるけどね、次は806号室の人よ。」


「わかりました、どうもありがとうございます。」


「困ったことがあったらいつでも言ってねー!力になるわよ!」
























「…っていうことがあったんだけど……あの人っていつもああいうテンションなの?」


『佐藤さんだよ、まあ結構にぎやかな人かな。』





夜。


ユノから困ってることはないかという電話が来たついでに、今日のことをため息混じりに報告する。



電話越しに苦笑いしているユノの声が聞こえて、再びため息がでた。





「近所付き合い、やってく自信ない……。」


『まああんまり関わらないようにすればいいんじゃないか、それしかないだろ。』


「それはそうだけど。」


『じゃあそろそろ寝るよ、また帰るときに連絡すればいいか?』


「ん、んー……そう、だね。」





こんなやり取りをしていることになんとなく違和感を覚える。



おやすみの挨拶を交わすときもどこか他人行儀な感じは否めずに、電話を切ったあとにも思わずため息が零れた。








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2014.8.12