「ケータイ鳴ってるよ?旦那さんじゃない?」
「……。」
「あれ、出ないの?」
「メール入れとくからいいよ、気にしないで。」
電話が鳴り終わってすぐ、すぐメール画面を起動して簡易文だけを作って送信する。
友達とご飯中。遅くならないうちに帰ります。
送ったそばから再び鳴り出す携帯。
ちょっとうんざりして、私は携帯をカバンの奥底にしまった。
5.プライベートは進入不可
あの些細なケンカ以来、なんとなくぎこちない空気が流れるようになって家の中に居辛くなってしまった。
顔を合わせる時間が少ないときはまだいいんだけど、今日はそうもいかなくて。
仕事終わりに「外食するから」とメールだけ入れて、そのまま友人と居酒屋に篭っている。
「旦那さんと上手くいってないの?」
「…別に、そういうんじゃないけど。」
「電話、出てあげたほうがよかったんじゃない?」
「出ると長くなると思ったから。せっかくの再会なんだしさ、私の家のことなんかどうでもいいからもっと別の話しよう!」
ちょっと溜まっていたストレスのせいもあって、今日はやけにお酒のペースが速かった。
そのせいか、
「……ただいま…。」
飲み会の後半から徐々に頭痛や気持ち悪さが起こり始めて、家に帰ってきたときはかなりピークだった。
電気のついてない家の中。
静かに靴を脱いで上がろうとすると、部屋の奥から「おかえり。」とユノの声が聞こえてきた。
寝付いていなかったらしい。
私の顔を見るなり軽くため息をついた。
「何で電話出なかったんだ?」
「…盛り上がってたの、ごめんなさい。」
見え見えの嘘をついてあまり顔を合わせないように隣をすり抜けようとした。
ユノは私の言葉に納得がいかなかったらしく、軽く腕を掴んで引き止めてくる。
揺らされた頭にひどい痛みが走った。
早くお風呂に入って寝たいのに、掴まれた腕が離れてくれない。
「心配したんだぞ。変な男に――」
「男となんて会ってない!心配しなくても、スキャンダル撮られてあんたに迷惑かかるようなことはしてないから!」
腕を振り払って声を荒げると、驚いた顔をしたユノが目に映った。
自分でもなんでこんなことでキレてるんだろう、と思いつつ、乱れた呼吸を整えるために大きく息を吸った瞬間、
「え、ちょ、!」
視界がぐるりと回って体が急に重くなって、廊下にへたり込んでしまった。
頭が痛い、気持ちが悪い。
とっさに口を押さえるも、吐き気のような気持ち悪さじゃなくてとにかくお腹がムカムカする。
目頭が熱くて耳の中でワンワンと音が鳴ってる気がして、とにかく身体が動かない。
「、どうした、飲みすぎたのか?…もしかして、熱あるんじゃないか?」
耳元でうるさくしないで、と言ったつもりが、ちゃんと言葉になっていたかわからない。
とにかく触ってほしくなくて差し出された腕を押し返した。
でも実際にはほとんど腕が持ち上がってないし、力も入ってないしで、あっという間にユノに抱き上げられてしまった。
途端あふれ出す涙。
自分でもわけがわからない。
薄れゆく意識の中、ユノに運ばれて自分の部屋に向かうことだけを認識した。
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2014.8.12