、と呼ばれる声がする。
振り向くとそこにユノがいて、声の割には表情が厳しい。
私が声をかける前に深くため息をついてどこかへ行ってしまった。
何のために私を呼んだのだろう。
6.いつも怒ったような顔
ぼーっとした頭で重たい瞼を開くと、暗い部屋の天井が目に入った。
無機質な秒針の音がよく聞こえる。
さっきのは夢だったんだと認識するまでに時間がかかって、何で夢の中でまでユノが不機嫌だったのかと考えてしまった。
ユノに運んでもらってから一体どれくらい経ってるんだろう。
この体の気だるさと体温から察するに、風邪をひいたらしい。
まさか風邪を引いてるなんて思ってもいなかった。
そんなときにあんなに酒を煽ったら、そりゃあ体調も一気に悪くなる。
情けないなぁ…あとでちゃんとユノに謝ってお礼言わないと。
ふと目線を動かすと、少し離れたところに椅子に腰掛けて腕を組んで船を漕ぐユノを見つけた。
まさか、私を運んでからずっとここにいたってことだろうか。
「…ゆの、」
掠れた声で呼んでも彼は起きなかった。
仕事で疲れてるだろうし、ちゃんとベッドで寝たほうがいいよと起こしてあげたいのに。
思ったよりも体調は悪いらしく、体が本当に重くてベッドから這いずり出ることもままらなかった。
小さいため息をついて、何度かユノに呼びかけるけどやはり反応が無い。
どうしよう、と思って、そこでさっき夢に出てきたユノを思い出した。
怒ったような不機嫌な顔。
今は、眠りこける穏やかな顔。
思えば私が見るユノはあんまり表情が穏やかではなかったかもしれない。
それはこんな生活が始まって、誰ともわからない女と一緒に暮らさなきゃならなくなって、仕事の疲れもあるしストレスも溜まるしで当然のことだったのかも。
私も私で結構言いたい放題言っちゃったし、ユノのことあんまり気遣えてなかった。
険しい表情ばっかり見るのも当たり前。
だから夢に出てきたユノも、怒った表情だったんだ。
それなのに、ユノはこんな私を助けてくれた。
なんで優しくしてくれるんだろう。
いい人すぎる。
「部屋に帰って。ユノ。…部屋に、戻って。」
力の入らない声で何度も何度も呼びかける。
名前を呼んで、お願いと懇願するように。
それでもユノは起きてくれない。
「お願い、…風邪が、うつるよ。…ユノ。仕事に支障、でちゃうよ。」
今になって優しさが身に染みて、心苦しい。
安らかな寝顔に何度も呼びかける。
今はどうしても、独りになりたかった。
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2014.8.12