ユノが何を言っているのかわからなくなって、どう答えればいいのかわからないでいると、
『とにかく帰ってからちゃんと話すから。明日の夜には帰るから、ちゃんと家にいてくれよ。』
と強めに言われて、通話を切る前に再び「好きだ。」と言われて、電話が切れた。
9.契約違反
言葉通りユノは翌日の夜に帰ってきた。
大荷物を廊下に置いたまま、私の顔を見るなり困ったような笑顔で「ただいま」と呟く。
反射的に「おかえり」と言ったけど、自分の声の小ささにビックリしてしまった。
だって、ユノを視界に捉えてから心臓の音が大きくてうるさくてしかたがない。
「昨日何杯飲んだの?」
「は?」
「酔ってなかったらあんな変なこと言わないでしょ。」
「……、俺本当にお前が考えてることがよくわからない。」
「だから、何でよくわからない女なんかに好きだなんだって言えるのっていう話よ!」
あの後から私の精神は非常に不安定で、浮ついたり沈んだりを繰り返して今に至る。
手放しで喜んでいいものか、そもそもユノの言葉は本気なのか、いやあれは酔ってたんじゃないかとか、いろいろ考えて。
だいたい、ユノが私のどこを好きになるっていうんだろうって考えて、素直に受け止められなくなった。
「強制的な結婚でこんな態度の悪い女と一緒に住まなきゃいけなくなって……どこに好きになる要素があるの?」
「うーん…気づいたら好きだなって思ってたからよくわからないけど……やっぱり一緒にいて安心できるなって思ったんだよ。初めて。」
「……。」
「一緒にいるのが当たり前だなって思うようになったし、自分の気持ちに気づいてからはちゃんと告白しようって、いつも考えてた。
でもは俺のことなんとも思ってないかもしれないなって考えたら、なかなか行動に移せなくてさ。そこに仕事がぎっしり入って、家には帰ってこれないし…」
左手薬指に嵌めた指輪を見つめながら、ユノはぽつりぽつりと呟いている。
「変な記事がネットに出回ってて、ファンはネット上でのこと叩いてるって聞いたし、……ほら、過激なファンも中にはいるからさ。心配になって……。」
そこまで言って、ユノがガサツに頭をかき始めた。
あー、とかうー、とか言って、勢いよく頭を上げる。
圧倒されてしまうほど真剣な眼差し。
テレビでは見ないまた別の顔だ。
「俺はが好きだ。返事を聞かせてほしい。」
信じられないような話から出会って、本当に惹かれあうことがあるとは夢にも思わなかった。
お互いに早く契約が終わればいいと思っていたのに、一緒に過ごすうちに気持ちが揺れ動いていくなんて、まるでドラマ。
ましてやあのユノが、私なんかを好きになってくれるなんて、奇跡以外のなにものでもない。
いい部分なんてほとんど見せていないのに、好きになってくれたのは本当になんでだろう。
「。」
「……立派な契約違反じゃない、ユノも……私も。」
「好きになってはいけない、っていう契約はなかったよな。」
「……結んでなくて、よかったね。」
ユノの広い腕の中に包まれて、とてつもない安堵感に包まれた。
抱きしめられる腕の力がどんどん強くなって、ユノの顔が近づく。
「結婚してから好きになるって、変だよ。」
「そういう出会い方をしちゃったんだからしかたないだろ。」
塞がれた唇から伝わる熱に、これは現実なんだなあと思い知らされる。
何度も何度もキスを交わして、そういえば契約を違反した場合の罰則を決めていなかったことに今気づいた。
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2014.8.12