結婚してから、それに年齢的にも、この質問は多くの記者から寄せられるようになった。
「お子さんのご予定は?」
今はまだ仕事が忙しいので、とか、どうなんでしょうね、とか。
のらりくらりと逃げ回っていて、真剣に答えた事なんて一度もなかった。
それに、俺とはいわゆる恋人時代がまったくといっていいほどない。
だから子どもの前に、まずはそういう思い出作りを先にしたいと思っていた。
俺は。
だからの口から出た言葉を聞いて、非常に困惑している。
「…ユノ、……赤ちゃん…」
13.夢の台詞を口にして
誤解を与えてしまったかもしれないが、子どもができたわけじゃない。
もっと言おう、そんな覚えもない。
俺が言いたいのはそういうことじゃなくて。
の寝言に俺が勝手に動揺して困惑したというだけの話なんだが。
寝言とはいえ、その言葉がから出てきたときは一瞬ドキッとした。
ドラマの台本を読む俺の隣で寝ていたの、ほんとに些細な寝言だったんだ。
きっと赤ん坊が出てくる夢でも見ていたんだろう。
ただ、それを俺の名前とセットで出されると。
今まで記者の人たちにされていた質問が、一気に現実味を帯びたような感覚になる。
俺との子ども――
「……」
「ん?なに?」
昨夜のの寝言が否応なくよみがえる。
ぱっと振り返るの顔を直視できない。
意識してるのは俺だけ、そんなのはわかりきっているのに。
「どうしたの?」
「……いや、……なんでもない。」
俺は何を言おうとしたんだ、と急に我にかえる。
だめだ、昨日から冷静さを欠いてる。
たかが寝言に影響されすぎている。
いずれは子どもを授かりたいとは思う。
だけど、それは今なのか?とも思ってしまう。
踏むべきプロセスを踏んで、夫婦の時間を満喫してからのほうがいいと思うし。
それに、未だキスより先に進んでいない俺たちの関係を、いきなりそこまで急かしていいものなのか。
は?
どう考えているんだろう。
「ユノ、なんか難しい顔してる。」
「……、あのさ。」
「うん?」
「昨日の夢って、覚えてるか?」
俺は別に、急いで先に進みたいわけじゃない。
の気持ちを確認したい、ただそれだけだ。
子どもをほしがっているなら、先延ばしにしていいことじゃないし。
俺と同じように、二人の時間をとろうというなら、ゆっくり歩んでいきたいし。
何よりもまずはの気持ちを確認したかった。
「昨日……あっ、……もしかして、私なんか言った?」
「……まあ、」
「あー……なんか、恥ずかしいね。実はね、赤ちゃんを抱っこしてる夢を見たの。」
俺たちの子どもかどうか定かじゃないけど、夢の中で、の腕の中には赤ちゃんがいた。
それを俺に抱かせて、談笑している夢だった――
そのときの言葉が、昨日のあれになるのか。
そう遠くもない未来のビジョンのような、の夢。
少しぎこちない空気が俺たちの間に流れている。
は話しながら、徐々に照れた顔を見せ、気まずそうに俺から目を逸らしていた。
俺もの顔を見つめるのはなんだか照れくさくて、あちこちに視線を動かしている。
切り出し方を間違えたかな。
数分前の自分の行動に、ため息を漏らさずにはいられなかった。
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2015.6.3