。」




ユノの端正な顔がこちらを向いて、儚さを少しだけ伴って名前を呼ばれる。



言いようの知れない不安な気持ちを言葉に出来ずにいる私に、ユノは静かに言葉を紡いで。




「俺の名前呼んで。」




その願いの裏にどんな気持ちを隠しているのか、知る権利があるのなら教えてほしい。




私はこんなにも切ないのに。







散らばる片鱗をかき集めても







初秋の夜、少し肌寒くなった空気に包まれながら、並んで歩いていた足を止めたのはユノだった。



手を伸ばせば触れられる距離。


腕を組んで体を寄せ合って歩くことも出来たのに、今私たちの間にある距離の意味は、なんだろう。




顔を見つめて彼の今の気持ちを汲み取りたくて必死になるけど、それができないこともちゃんとわかっている。




言葉にしなきゃわからないことばかりのこの世界で、それでも言葉にしてもらえないときはどうしたらいいの?





「ユノ。」


「…もう一回。」


「ユノ。ユノ……ねえ、ユノ。」


「……ん?」





苦しい、って。


その言葉がふさわしいのかは、わからないけど。



心臓の奥のほうからきゅって掴まれたような心地がして、私は声を出すのも億劫になる。




ゆっくり歩み寄って距離を縮めて、ユノの手を握り締めるのにユノは握り返してはくれない。



顔を上げて目を合わせても、ユノは何も言ってこない。




どうして。






「ユノ……」


「……、ありがと。」





離れそうになる手。


離すまいと少し力を入れて引き止めると、ユノの動きがまた止まる。





「…っ、ちゃんと言ってくれなきゃ、わからない。私……知りたいよ、ユノの、考えてること。」




声が上手く出せない。


まだ心臓が掴まれているような感覚。


息をするたびに痛みに似た感覚が喉に広がって、それでも私は言葉にしなきゃと思って。




私ばっかりが必死になっている。




ユノの言葉を待つ時間がすごく長く感じられて、辛い。






「…俺も、よくわからない。」


「……。」


「わからないけど、でも今、……すごい、寂寥感に襲われてる。」


「……なんで?」


「……なんでだろうな。怖い、のかな。」





なにが?




聞くのと同時に繋いでいた手が離れてユノの背中がこちらを向いた。



自分の息を呑む音が鮮明に聞こえる。





「こういう瞬間を忘れることが。」











なにも、いえない。



だって、そんな、





「……なあ、……ごめんな。」


「……、っ、そんな顔しないで。」





触れたいのに触れられなくて、近いのにすごく遠くて、なにもできないその事実だけが重くのしかかってくる。




名前なら何度だって呼んであげられるのに、今は、









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2014.10.6

お借りしたはいいもののぼんやりとした話を書きすぎました。申し訳ない。


お題「「俺はいつか忘れてしまう」」:fisikaさま